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マンション修繕積立金は「段階増額積立方式」と「均等積立方式」の2種類! それぞれのメリットとデメリットは? 

修繕積立金

マンション修繕積立金の2つの徴収方式である「段階増額積立方式」と「均等積立方式」。
それぞれの概要と、メリット・デメリットについてご紹介します。
また、国が「均等積立方式」を推奨し、「マンション管理計画認定制度」を基本としている理由なども解説します。

目次
1. 修繕積立金の2種類の徴収方式
2. 「段階増額積立方式」とは
3. 「均等積立方式」とは
4. なぜ、新築時に「段階増額積立方式」が多いのか
5. 国が推奨する「均等積立方式」
6. 「マンション管理計画認定制度」も「均等積立方式」を基本に
7. マンション修繕費の積立不足を避けるためには

修繕積立金の2種類の徴収方式

マンション修繕積立金には2種類の徴収方法があります。
1つは新築当初から修繕積立金の金額を低くすることで負担を軽減し、その後、段階的に増額していく「段階増額積立方式」と、もう1つは将来的に必要な修繕工事費の合計金額から按分し、当初から一定額を徴収していく「均等積立方式」です。

2018年に国土交通省が発表した「平成30年度マンション総合調査」によると、マンション全体の修繕積立金の積立方式の採用割合は「均等積立方式」が41.4%、「段階増額積立方式」は43.4%となっています。
2015年以降に完成したマンションでは「均等積立方式」が19.7%、「段階増額積立方式」は69.7%に達しており、新築マンションで「段階増額積立方式」が設定される傾向があることがわかります。

出典:国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

修繕積立金はマンションの計画的な維持修繕のために必須です。しかし昨今、多くのマンションが国土交通省の示す「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の金額を下回っていることが指摘されており、将来の積立金不足を懸念するマンションが増加傾向にあります。

この2種類の徴収方式の考え方には大きな違いがあります。それでは、これらの具体的な内容について説明していきます。

「段階増額積立方式」とは

新築当初は修繕積立金の金額を低く設定しておき、段階的に増額していく方式です。従ってこの方式ではその都度、総会で金額変更の決議と同意を求める必要が生じてきます。

修繕積立金

区分所有者には長期修繕計画の内容を丁寧に説明するとともに、修繕積立金の負担増について十分に理解をいただき、全員の合意のもと進めていく必要があります。

●「段階増額積立方式」のメリット・デメリット
「段階増額積立方式」のメリットとデメリットとは、どのようなものなのでしょうか。
以下にまとめたので参考にしてください。

<「段階増額積立方式」のメリット>
・購入当初からしばらくの間は負担が少ない
購入当初は資金繰りが安定しないことから、入居者は支出をなるべく減らしたいと考えています。このことから、入居当初の修繕積立金の金額が低く設定されているので、購入当初の入居者ニーズには合った方式といえるでしょう。

・実際の修繕工事費の必要額に沿った積立が可能
新築当初は修繕も少なく、多額の積立金を必要としません。この方式は修繕時期に見合った金額を合理的に積立てていくという考え方に基づいています。

<「段階増額積立方式」のデメリット>
・総会での合意形成が必要である
金額変更する場合、ほぼ増額となることから、その都度区分所有者への合意形成が必要となります。
もし合意形成が難航すれば、円滑な積立金徴収が困難になると考えられます。

・段階的に支払額が増加するので居住者の資金計画が立てにくい
支払額が増額することによって他の支払いを圧迫する恐れがあるため、居住者が資金計画を立てにくくなります。また、徐々に金銭的な負担を感じるようになります。

・「均等積立方式」に変更する際、値上げになる場合がある
積立方式を「段階増額積立方式」から「均等積立方式」に変更する際には、変更時期によっては大幅な値上げとなる可能性があります。

・滞納・未払いが発生する可能性がある
途中から増額となるため、滞納や未払いが生じる可能性があります。
また、振込で支払う際には金額相違による支障が生じるかもしれません。

・積立金の資金ストックが乏しい
修繕計画に見合った金額を合理的に積立てていく方式ですが、一方で修繕計画にない突発的な修繕工事などが発生した場合の資金需要に対応できないことも考えられます。

「均等積立方式」とは

修繕積立金

将来予想される修繕積立金の総額を長期修繕計画の期間で割り、新築当初から一定額を徴収していく方式です。

この方式は建物や設備の維持管理に向け、将来的に必要となる修繕にかかる資金を均等に負担していこうという考え方に基づいています。

また、将来の目標金額に向かって的確に管理が行えるため、金額変更に伴う合意形成を繰り返し行う必要もないことから、国土交通省が推奨している徴収方式です。

●「均等積立方式」のメリット・デメリット
それでは「段階増額積立方式」と同様、「均等積立方式」のメリット・デメリットについてみていきましょう。

<「均等積立方式」のメリット>
・居住者の資金計画が立てやすい
修繕積立金の徴収額が一定なので、家計にも負担が少ない徴収方式です。
管理費やその他の支払いとともに計画的な支払いが可能となります。

・滞納・未払いのリスクを軽減できる
修繕積立金の徴収額が一定なので、滞納や未払いといったリスクを軽減できます。

・修繕積立金を着実にストックしていくことができる
修繕積立金を着実に溜められるので修繕予定が立てやすく、必要な修繕資金を効率的、かつ安定的にストックしていくことができます。

・老後の生活設計にゆとりを持たせることができる
築年数が浅いうちは「段階増額積立方式」に比べて金額が割高になりますが、永住を予定する居住者にとっては修繕積立金の増額がないので、老後の生活設計にゆとりを持たせることができます。

・マンションの資産価値向上につながる
転居予定の居住者には当面の負担があり、歓迎されないかもしれません。しかし売却の際、マンションの積立金残高に余裕があれば将来的に大幅な値上げの可能性も少ないと考えられることから、マンションの資産価値向上にもつながるといえるでしょう。

<「均等積立方式」のデメリット>
・購入直後に多少負担がかかる
マンションの購入直後は手元資金が心もとないことから、支出はなるべく減らしたいところです。「均等積立方式」では「段階増額積立方式」と比べて最初から割高となるので、購入直後は負担に感じる人もいるでしょう。

・「段階増額積立方式」に変更する際、値上げになる場合がある
途中で「均等積立方式」から「段階増額積立方式」に変更となった際、「均等積立方式」では将来的な増額を予定していないことから、理解を得るのが困難になると予想されます。

・新築直後は修繕の可能性がほとんどない
新築当初は積立金の徴収額は少ないほうが合理的です。「均等積立方式」だと当初は必要性の薄い積立金を徴収していることになるため、将来を見据えて修繕資金をストックしていることを説明する必要があります。

なぜ、新築時に「段階増額積立方式」が多いのか

新築マンションは当初の月額負担を軽減するため「段階増額積立方式」を採用する傾向がありますが、これは営業的側面が非常に大きいと考えられます。

一般的に、新築マンションでは修繕積立金の金額設定は分譲業者などが行います。
マンション購入当初の金額を低く抑え、経済的な負担感を少なくすることで販売促進につなげる狙いがあるのです。

冒頭で、2015年以降のマンションでは69.7%が「段階増額積立方式」を採用しているといいました。

これは過去のマンションブームの影響で、当時多くの新築マンションで「段階増額積立方式」が設定されていたことを顕著に表しています。

「段階増額積立方式」は、購入時は低額でよいのですが、5年、10年が経過した頃には当初と比較してかなり増額されているケースがほとんどです。

このことから滞納が発生して修繕積立金の不足が生じ、大規模修繕工事が実施できなくなるなど、根本的に長期修繕計画の見直しを検討せざるを得なくなる管理組合も決して少なくないのが現状なのです。

国が推奨する「均等積立方式」

国土交通省は2021年4月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を発表しました。

特筆すべきは、このガイドラインは実際の長期修繕計画の事例をもとにして作成されており、長期修繕計画の計画期間全体における積立金の平均額から専有面積のm2ごとに修繕積立金の徴収目安を示していることです。

出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

ガイドラインはもともと、新築マンション購入予定者に対して修繕積立金に関する基本的な知識や月額の目安を示したものでした。しかし、昨今、多くのマンションで区分所有者間の合意形成が進まず、修繕積立金の不足が生じている事態にも注目したのです。

そこで、これらの問題を抱える管理組合に対してもガイドラインを発信し、長期修繕計画の見直しの必要性や見直し後の修繕積立金の金額水準を示し、合意形成を促進していこうとしています。(2021年9月には新築マンションだけでなく、既存マンションでも活用できるよう改定)

国はこのように、我が国全体のマンションに向けて円滑な運営を推進するためのガイドラインを示し、その中で「均等積立方式」を推奨しています。

現在「段階増額積立方式」の増額により積立金確保が困難となっていれば、ガイドラインを活用した「均等積立方式」への切り替え促進が期待されているのです。

「マンション管理計画認定制度」も「均等積立方式」を基本にしている

「マンション管理計画認定制度」をご存じでしょうか。この制度は2022年4月から実施されており、一口にいえば地方自治体がマンション管理にお墨付きを与えることにより、広くマンション管理の向上を促進していこうとするものです。
具体的には管理組合単位で管理計画(収支管理や修繕計画など)を策定し、市区などの地方自治体に提出し、基準を満たしていれば認定を受けることができます。

管理計画が認定されればさらなる管理意識の向上につながり、居住性や資産価値も向上して売却時には有利になるなどのメリットがあります。
そして、この「マンション管理計画認定制度」においても国のガイドライン同様、将来の積立金を一定額で積み立てていく「均等積立方式」を基本におくことが示されているのです。
この制度はまだ開始されたばかりですが、マンションに住む人、また購入予定の人は、この制度の意味をしっかりと理解しておく必要があるといえるでしょう。

マンション修繕費の積立不足を避けるためには

修繕積立金

「段階増額積立方式」と「均等積立方式」、いずれの場合であっても長期修繕計画で計画された工事が滞りなく実施できるだけの資金が確保されていれば問題はありません。
それぞれのデメリットをカバーするだけの対策がしっかりと講じられていれば問題はないでしょう。

しかし、昨今、国土交通省が示すガイドラインの金額を下回るなど、多くのマンションで将来の積立金不足を懸念する声が上がっています。

対策としては「将来を見据えた長期修繕計画の見直し」や、増額を伴わない「均等積立方式」への切り替えを検討していかなければなりません。

そのためには総会での合意形成が必要となりますが、金額の大幅アップの可能性もあることからそのハードルはかなり高いことが懸念されます。

さらに、マンションには「建物の老朽化」とともに「居住者の老い」という「2つの老いの問題」が重くのしかかっているという現実もあります。
築年数が古いマンションでは高齢化が進み、年金生活の人が多いことも「均等積立方式」への切り替えが一筋縄にはいかない理由になっています。この問題は、居住者の「永住意識」にも深く関わっているのです。
最近では将来のマンションの姿を視野に入れ、来るべき老後生活を見据えて「均等積立方式」への切り替えを検討するマンションも増加傾向にあるようです。

みなさんのマンションでも、大切な修繕積立金が将来スムーズに徴収され、また長期修繕計画も予定通り実施可能かについて、今一度、話し合ってみてはいかがでしょうか。

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■この記事のライター
吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
愛知県出身 職能能力開発総合大学校(当時:相模原市)卒業
マンション管理士・一級建築施工管理技士・マンション維持修繕技術者を有し、大規模修繕工事の営業に従事した経験者

(2023年6月12日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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