タグ一覧
どうなってるの? 世界のマンション事情 〜スウェーデン編・前編〜
世界各国におけるマンションの事情についてご紹介するシリーズです。今回は、北欧スウェーデンの住文化や住宅事情を調査しました。
スウェーデンは北欧諸国の中で最大の面積を持ち、日本の約1.2倍の大きさです。持続可能な開発目標(SDGs)や環境問題への意識が高く、築95年以上のマンションが約1割を占めるなど、建物を長く大切に使う文化が根付いています。この記事では、スウェーデンの住文化や住宅事情について全2回に分けてご紹介します。第1回目は、環境先進国スウェーデンの取り組みと住宅事情、コミュニティを大切にする住環境の様子をお届けします。
目次
1. スウェーデンのSDGsー政府と自治体・企業による環境への取り組み
2. スウェーデンの住宅事情 人口の増加と都市部への集中が問題に
3. スウェーデンの地域住民の結束「セーフコミュニティ」
4. スウェーデンでは高評価の古い物件 快適性と機能性を取り入れた住まい方
スウェーデンのSDGsー政府と自治体・企業による環境への取り組み
スウェーデンはSDGs先進国として知られ、2024年の「Sustainable Development Report」では、フィンランドに次ぐ世界第2位の評価を受けています。※1
この成果は、政府、自治体、企業が一体となってSDGsに取り組んでいることに起因しています。
※1 「Sustainable Development Report2024」(国連)
●「ゆりかごから墓場まで」 国・自治体・企業の取り組み
スウェーデンのSDGsに関する取り組みは、環境、人権、福祉分野など広範囲にわたります。スウェーデンでは、世界でも有名な「ゆりかごから墓場まで」の社会保障制度が提唱されており、この考え方が国や自治体、企業の取り組みの基盤となっています。
環境に配慮した施策やリサイクル可能な天然資源の利用が進められ持続可能な社会を目指す風潮が根付いています。
スウェーデン政府は、2040年までに発電をすべて再生可能エネルギーに切り替え、2045年までに温室効果ガス(GHG)の排出を実質ゼロにする目標を設定しています。首都ストックホルムでは、全てのバスが再生可能燃料で運行され、地下鉄はシステム全体がグリーン電力で稼働しています。
また、工業地帯として環境汚染が深刻だったストックホルム南部の郊外都市では、循環システムを用いて廃棄物を土壌に戻し、植林に役立てる取り組みが進んでいます。
このようにしてスウェーデン国内では官民一体となって様々な取り組みが行われています。
スウェーデンの住宅事情 人口の増加と都市部への集中が問題に
スウェーデンは歴史的な建物が多く、美しい街並みが印象的です。首都ストックホルムは「水の都」として知られ、バルト海に広がる島々が幻想的な風景を作り出しています。
スウェーデンの住宅というと「木造のパステルカラーの戸建て住宅」を連想するかもしれませんが、実際には集合住宅が多く存在します。
古い建物を大切し、リニューアルやリノベーションを行いながら世代を超えて住み続ける住文化があります。それではスウェーデンのマンション事情や住文化について探っていきましょう。
※1 「Sustainable Development Report2024」(国連)
●スウェーデンの住宅は集合住宅が主流
日本における「マンション」は、スウェーデンでは「レーゲンヘート(lägenhet)」と呼ばれています。
2024年のスウェーデン統計局のデータによると、2023年12月末現在でスウェーデンには約520万戸の住宅があり、このうち戸建て住宅が41%、集合住宅が52%を占めています。※2
ストックホルム市内では戸建て住宅の建築が規制されており、特に都市部では地価が高いため、集合住宅が主流となっています。
また、古い住宅が多いことも特徴です。具体的には、戸建て住宅の約20%、集合住宅の約8%が築95年以上となっています。このような古いものを大切にする文化がスウェーデンの美しい街並みを形成する要因の一つとされています。
※2 出典: Statistical news(スウェーデン統計局)
●スウェーデンでは人口増加と、都市部への人口集中が問題に
スウェーデン人口は増加の傾向にあります。2024年に外務省が公開したデータ※3によると、総人口は約1052万人(IMF2022年)で、そのうち約98万人が首都ストックホルムに居住しています(スウェーデン統計庁2022年12月)。この大都市への人口集中により、都市部では住宅供給不足や価格上昇などの問題を引き起こし、いわゆる住宅地格差を助長しています。
※3 出典:スウェーデン王国(Kingdom of Sweden)基礎データ(外務省)
スウェーデンの地域住民の結束「セーフコミュニティ」
スウェーデンでは、地域住民が主体となって安全な社会をつくる「セーフコミュニティ」という取り組みがあります。これは地域全体で協力して、全ての世代において、事故や障害を予防し、安全で安心して暮らせる環境をつくることを目的としたもので、住民が積極的に参加し貢献することによって計画が進められます。例えば、高齢者に優しいまちづくりでは、高齢者自身が積極的に関わります。
●日々の暮らしを豊かにする「コハウジング」と「コレクティブハウス」
スウェーデンには、様々な世代が一緒に暮らす「コハウジング(Cohousing)※4」や「コレクティブハウス(Collective House)※5」と呼ばれる集合住宅の形式があります。これらは高齢者から子どもまで様々な世代が一緒に暮らす都市型集合住宅で、住民が主体となって豊かなコミュニティを築いています。
※4 住民が共同で設計・運営する住宅コミュニティの形態。1960年代にデンマークから始まりました。
※5 異なる世代や家族構成の人々が一緒に暮らす住宅形態。1970年代にスウェーデンなどの北欧から広がりました。
スウェーデン最南部のスコーネ地方にあるマルメには「ゾフィエルンズ・コレクティヴフス」という2棟45戸から成る集合住宅があります。このプロジェクトは地元議会が出資しており、住民は共同ダイニングやキッチンなどを共有しながら生活しています。共同エリアの掃除や食事の準備は当番制です。
また、スウェーデンでは、完全に独立した集合住宅に共同のキッチンや中庭、共用のランドリールームが設置されています。共用のランドリールームは長年親しまれ、サステナビリティにも寄与しています。
さらに、共同スペースでは住民同士の会話が自然に始まり、スウェーデンの伝統的なお茶の時間「fika(フィーカ)※」を楽しむこともあります。休日には中庭でバーベキューが行われることもあります。このように、個人のプライバシーを保ちながら、住民同士のつながりを大切にしています。
※スウェーデンの伝統的な習慣で、コーヒーやお茶を飲みながら、友人や同僚とリラックスした時間を過ごす文化。スウェーデンでは、日常生活の中で「fika」の時間が大切にされ、社交とリフレッシュの場として広く親しまれています。
スウェーデンでは、18歳になったら自立するのが一般的です。コレクティブハウスを利用して年長者から助けを受けつつ、自立を進める人も少なくありません。
このように「コハウジング」や「コレクティブハウス」では、住人が世代を超えて協力し、食事や子育てを支え合い、日々の暮らしを豊かにするのがスウェーデンのスタイルです。
スウェーデンでは高評価の古い物件 快適性と機能性を取り入れた住まい方
スウェーデンでは家具や食器も世代を超えて受け継ぎ、メンテナンスしながら長く大切に使う習慣があります。
これは建物においても同様で、日本では新しい物件が高く評価されますが、スウェーデンでは古い物件が高く評価されることが多くあります。中古の物件をリノベーションして付加価値をつけて売るのが一般的で、築年数よりも丁寧にメンテナンスされたかが重視されます。
●積極的に光を取り入れる設計と暮らしを楽しむためのバルコニー
【間取りの例】
スウェーデンのマンションは、短い夏と長い冬に適応するために積極的に太陽光を取り入れる設計が多く見受けられます。レースカーテンは使用せず、夜もカーテンなしで過ごす家庭が多いです。
リビングは広く、家族や友人との交流の場として最適な場所に配置されます。バルコニーも日本より広くとり、洗濯物を干すスペースではなく読書や「fika(フィーカ)」を楽しむ空間として使われます。
日本と同様に出入り口で靴を脱ぎ、室内では靴を履かずに過ごします。玄関には段差がなく、床の色や素材を変えたり、玄関マットを敷いたりして工夫しています。バスタブのある住居は少なく、多くはシャワーとトイレが一緒に設置されています。
北欧家具はシンプルで、木の温もりを感じさせる自然素材を使用し、快適性と機能性のあるデザインが特徴です。日本でも人気が高く、一生使える家具として愛用されています。
このように、スウェーデンでは、建物や家具のメンテナンスを重ね、世代を超えて受け継ぎ、人とのつながりを大切にしながらも個を尊重する暮らしが根付いています。
今回は北欧スウェーデンの社会の取り組みとコミュニティ、そしてそれを支える住文化について紹介しました。後編は、エシカルな暮らしを支えるシステムと、環境先進国スウェーデンの住宅設備について紹介します。
■あわせてお読みください。
・どうなってるの? 世界のマンション事情 〜スウェーデン編・後編〜
・どうなってるの? 世界のマンション事情 〜ドイツ編〜
・ユネスコ世界遺産登録の「軍艦島」を視察して
・海外インテリアのトレンド事情は? 流行先取りでおしゃれな部屋づくり
・ヴィンテージマンションって何? その人気の理由と注意しておきたいポイント
・インテリアのトレンドはくすみカラー? グレージュインテリアで広見せのコツ
■この記事のライター
□熊谷皇(くまがいこう)
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境工学(温熱環境、省エネルギー)。国土交通省住宅の省エネ基準検討WG委員、日本産業規格JIS A 9521(2017)技術コンサル、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校の講師、日本建築ドローン協会(JADA)WG委員を歴任。
(2025年1月20日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。