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どうなってるの? 世界のマンション事情 〜ドイツ編〜
このシリーズ、「どうなってるの? 世界のマンション事情」では、世界各国におけるマンションの事情を詳しく調べて、読者の皆様にご紹介していきます。
今回はドイツのマンション事情について調査しました。ドイツは、住宅の所有形態において他の先進国と比べて独自の特徴があり、持ち家の割合が低く賃貸住宅が一般的です。
ドイツでは、古い建物の内部を自分好みに改装し、建物の維持に尽力することが一般的で、環境への配慮においても先進的な国として知られており、省エネ法の整備や再生可能エネルギーの活用が積極的に推進されています。
今回はそのようなドイツのマンション事情についてご紹介します。
目次
1. 古い建物を直しながら使うドイツ 歴史のあるアルトバウ
2. DIYが必須技能? 自分好みに変えるDIYで快適なマンション生活
3. 省エネ先進国ドイツ 古い建物もエネルギーパスで評価され、認められる資産価値
4. まとめ
古い建物を直しながら使うドイツ 歴史のあるアルトバウ
ドイツには、世界遺産にも登録されている有名な大聖堂、宮殿、城などの歴史的建造物だけでなく、古いアパートなども多く残っており、その美しい街並みが人々を魅了しています。
日本でいうところのマンションは、ドイツでは「ボーヌング(Wohnung)」と呼ばれ、1948年以前に建てられた「アルトバウ(Altbau)」と、それ以降に建てられた「ノイバウ(Neubau)」に分類されます。ドイツ統計局のレポートによると、「アルトバウ(Altbau)」は全体の約28%※1です。日本で同年代のマンションの専有率は約5%※2ですから、日本に比べるとドイツは歴史ある古いマンションがはるかに多いことがわかります。
※1 ドイツ連邦統計局(Destatis) “ Wohnsituation in Deutschland im April 2002”(ドイツ)
※2 国土交通省住宅局「長持ち住宅の手引き」
「アルトバウ(Altbau)」は、広い間取りと高い天井、そして独自の装飾が特徴であり、その存在感は際立っています。石造りやレンガ造りのため、とても頑丈で断熱性も優れています。
一方、「ノイバウ(Neubau)」は1948年以降に建てられた比較的新しい建物を指します。シンプルな外観が多く、デザイン性の高いものから団地のようなものまで様々なスタイルが存在します。これらの建物は近代的な設備が整っており、部屋も窓も小さめに作られています。
ドイツにおける住宅の所有形態は、持ち家 43.7%、賃貸 53.6%であり(OECD2019※3)、先進国の中では例外的に持ち家比率が低くなっています(因みに日本における持ち家比率は約6割程度)。
その背景として、ドイツでは賃貸住宅に安心・安定して住み続けやすい環境が整っていることが挙げられます。たとえば、家賃の値上げに法律で制限があるため、賃料が安定していること、賃貸住宅を契約の契約期間が無期限であることなどです。
※3 OECD:経済協力開発機構。「世界最大のシンクタンク」とも呼ばれ、国際経済について広い分野で協議する国際機関。
●ドイツのマンションの特徴と人気の理由
ドイツは歴史のある古い建物が多いため、家の中は効率重視の間取りではなくゆったりとしています。このような建物では、キッチンが独立していることにより、リビングの心地よい空間が確保されています。日本の建物よりも天井が高く、大きい窓からは太陽の光がたっぷりと降り注ぐので、とても開放的で広々とした空間が特徴です。また、バルコニーがある間取りでは、食事や日光浴などリビングのように使われます。
古い建物ほど外壁や天井などには高級感のある美しい彫刻や装飾が施されているため、今でも人気が高い理由の一つです。
【ノイバウ(Neubau)の間取り例】
ドイツのマンションには基本的に駐車場がなく、必要に応じてガレージや地下駐車場などを別途手配する必要があります。禁止区域以外の路肩は駐車が可能で、路上での駐車に関する標識もあるほど路上駐車が一般的となっています。
DIYが必須技能? 自分好みに変えるDIYで快適なマンション生活
ドイツでは、賃貸住宅でもDIYが基本です。入居時にはシンクなどが付いていないことも多く、自ら日曜大工で設置するのが一般的です。壁のペンキ塗りや家具作りはもちろん、洗面台の交換や照明器具の配線まで自分で行います。退去時には壁を白く戻し、穴を塞ぐだけでいいので、借主の自由な発想で、個性あふれる家づくりが可能です。
一方、ドイツの古い建物ではつくりによって防音性が低い場合もあり、その場合はDIYで防音性能を高めたり、音が気にならないよう靴を脱いでスリッパで生活する人もいます。
ドイツは騒音に厳しいといわれています。特に夜10時以降はシャワーや洗濯機の使用を控えるなど静かに生活することが基本的なマナーです。
その代わり、朝は早い時間から活動する習慣があり、朝8時頃になると大きな音が聞こえてくることもあります。DIYが盛んな一方で、電動ドリルを使うときには時間に気をつける必要があります。
また、キリスト教の安息日である日曜日は、掃除機や庭仕事など大きな音の出る作業を避ける慣習があります。
省エネ先進国ドイツ 古い建物もエネルギーパスで評価され、認められる資産価値
真冬は日照時間が少なく、寒さが厳しいドイツですが、建物の構造や設備は省エネ性・快適性のための工夫が施され、省エネ先進国とされています。
●極寒のドイツでは地中熱を利用した省エネ暖房が一般的
ドイツでは地中熱を利用したセントラルヒーティングが主流であり、国内の新築住宅の50.6%がこのシステムを導入しています。このセントラルヒーティングは地中熱を利用した温水配管を通じて、30〜100℃にも達する温水を窓側の壁から部屋に循環させ、部屋全体を効果的に暖めます。
エアコンのように空気を温めるわけではなく、輻射熱を利用しているので快適性が高く、地中熱を利用するため、省エネ性も高いシステムです。熱の逃げやすい窓は三重窓が一般的で外壁や屋根・床の断熱性能も極めて高いことから、有効なシステムといえます。
●ドイツで義務付けられているエネルギーパス
エネルギーパスとは、断熱材や窓などの建材、さらに発電設備や立地場所の日照時間など、住宅の省エネ性能を示す数値です。
ドイツでは2008年からエネルギーパスの提出が義務づけられており、賃貸住宅でも建物の所有者がエネルギーパスを所持することで、たとえ築年数が長くても資産価値が評価されます。このような施策により、建物の省エネ性能を高める動機となっています。
●さらに省エネ政策を強化するドイツ
ドイツでは、2020年11月に「建築物省エネ法(EnEG)」「建築物省エネ令(EnEV)」「再エネ熱法(EEWärmeG)」の3つの法令を統合し、新たに「建築物エネルギー法(GEG2020)」が施行されました。法改正の目的は、建築物におけるエネルギーの最も効率的な利用を確保し、ドイツの気候目標達成に寄与することとされています。
これにより、新築には年間一次エネルギー消費量、断熱性能、自然エネルギーの利用という3つの要件が設定され、外壁や窓、ドア、天井、内壁などの断熱性能に基準が設けられ、一定水準以上の自然エネルギーの利用が義務づけられました。
一方、既存の建築物については、当該建築物のエネルギー効率の質を低下させる改修が禁止され、改修時には、一定水準の天井や外壁、窓、ドアの断熱性能の確保が義務付けられました。
既存の建物にも厳格な規定が設けられ、建物のエネルギー効率を高めるための断熱改修を促進する施策として、省エネリフォームへの助成金や低利子の融資といった補助制度を実施しています。こうした、エネルギーパスの導入によって家の燃費性能が明確になり、建物の売買や賃貸契約時に比較して検討することが容易になっています。
まとめ
ドイツの築100年以上の歴史を持つマンション「アルトバウ(Altbau)」は、古くから受け継がれてきたレンガ造りや二重窓などが、現代の住環境にも適応するように進化しています。
ドイツはエネルギー消費の約7割を輸入に依存しており、カーボンニュートラルの進展と合わせて、築年数の経った建築物でもエネルギー消費を抑えるために躯体の断熱改修や暖房システムの省エネ化などの取り組みに積極的です。これは、古い建物が持つ歴史的な価値と現代の持続可能なニーズを両立させる事例といえます。
一般的に、ドイツの住宅では、居住者が自らの好みに合わせてDIY(Do It Yourself)でインテリアデザインを行うことが一般的です。これにより、古い建物に新しい機能や設備を取り入れながらも、建物と住人双方の個性が尊重され、大切にされています。このアプローチによって、ドイツの美しい街並みは変遷を経ながらも、時代に適応し続け、同時にその歴史的な価値を保存し続けることが期待されます。
ドイツのマンション文化は、古い建物を大切に使用しながらも、省エネや個性尊重の観点から柔軟に変化し、美しい街並みを維持しつつ現代の要求にも応えるバランス感覚が見られます。これらの取り組みは、日本の住文化がこれからの社会に適応するための価値や知恵を学ぶことができそうです。
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■この記事のライター
熊谷 皇
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境工学(温熱環境、省エネ等)。国土交通省 住宅の省エネ基準検討WGの委員、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校等の講習会講師、日本建築ドローン協会(JADA)のWG等の委員を歴任。
(2023年12月18日新規掲載)
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