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管理組合に聞く タワーマンションにおける防災と大規模修繕への取り組み〜ライオンズタワー仙台広瀬〜

ライオンズタワー仙台広瀬
仙台市青葉区に、防災対策向上のために積極的な取り組みを行っている「ライオンズタワー仙台広瀬」というマンションがあります。

東日本大震災の前から災害時対応マニュアル作成に取り組み、震災発生時には事前の準備を活かしてライフラインの復旧や安否確認を迅速に実行しました。
震災の経験を経てさらにさまざまな防災対策向上への取り組みを行っていることが評価され、仙台市が防災力を認定する「杜の都防災力向上マンション認定制度」で、初となる最高点の6つ星を獲得しています。

建装工業(株)では、このライオンズタワー仙台広瀬の大規模修繕工事を、2018年に施工しました。
今回は、ライオンズタワー仙台広瀬 管理組合法人の皆さまに、防災への取り組みと大規模修繕工事に関するお話を伺いました。
(聞き手:KENSO Magazine編集部 [リボンハーツクリエイティブ株式会社])

ライオンズタワー仙台広瀬 管理組合法人(写真右から)
杉山 丞 様(副理事長・前理事長)
小松 敏明 様(副理事長・自治会長)
佐々木 秀喜 様(理事長)
二上 敏 様(理事)

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目次
震災時に活きた、積極的な防災対策への取り組み
積極的な提案が発注につながった大規模修繕
居住者へ情報をわかりやすく伝える努力を怠らない
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ライオンズタワー仙台広瀬

震災時に活きた、積極的な防災対策への取り組み

――ライオンズタワー仙台広瀬では、東日本大震災前から防災対策に取り組んでいたそうですが、その理由をお教えください。

杉山:当時は私が管理組合の理事長を務めていました。宮城県沖地震は20年以内に90%以上の確率で起こるといわれていたため、このマンションの住民だけでなく宮城県民は皆、近いうちに地震は必ずくるものだと考えていたと思います。

佐々木:私は昭和53年に発生した宮城県沖地震も経験していますので、どれぐらいの規模の地震がくるのかある程度わかっていたので、危機感はかなりありました。

杉山:ここは高層マンションなので、震災時にエレベーターが止まるなどさまざまな問題が起こる可能性がありました。そのため、地震への備えとして、防災対策への取り組みをはじめました。

――独自に災害時対応マニュアルも作成されたとのことですが。

杉山:当マンションは地上32階404戸、約1000人が居住していますので、災害時に近隣の避難所に全員が避難することは困難です。ライフラインが停止することで孤立する住民が出ることも予想できたので、災害対策は必須だと考えました。

そのようなときに、高層マンションが多い東京都中央区では、各マンションに対して防災マニュアルの作成指導をしていて、そのうちのひとつのマンションが作成したマニュアルを公開しているという話を聞き、それを参考にしようと考えました。

2010年4月に行われた当マンションの総会で、視察とマニュアル作成予算の承認を受け、実際に中央区と該当のマンションに視察に行きました。そこで話を聞き、マニュアルも見させてもらったところ、やはり大変防災対策が進んでいることを確認しました。その視察内容をもとに、仙台市などの自治体とも対応策について協議したのですが、当時はまだ超高層マンションだからといって特別な指導はしておらず、高層マンション用の災害時対応マニュアルを作る予定はないとの話でした。それならば自分たちで地震に備えてマニュアルを作成しようと考えました。
そして、そのマニュアルが完成間近となった2011年3月11日に、東日本大震災が発生したのです。
ライオンズタワー仙台広瀬
――東日本大震災の際、管理組合はどのように対応されたのかお聞かせください。

杉山:東日本大震災の発生時には、理事長であった私も当時の自治会長もマンションには不在でした。地震が発生してすぐに自治会長が戻り、初動として自治会長を中心に避難所の設営やホワイトボードを使っての情報提供などを行いました。
当マンションは免震構造なので、建物が破損したりけが人が出たりということは無かったので、飲料水の供給状況や停止してしまったエレベーターについての説明が中心でした。
また、マンション内にあるキッズルーム(改修後は広瀬ホールに名称変更)を避難所として開放し、予め用意しておいた石油ストーブや自家発電機を活用しました。
ちょうど災害時対策マニュアルを作成中だったこともあり、予め決めておいた対策法が頭に入っていて、理事・役員のメンバーは落ち着いてスムーズに対応することができました。

このマンションは免震構造ですので建物自体への被害は軽微でしたが、地震直後は停電となり、エレベーターが停止してしまいました。
非常用エレベーターは自家発電装置で動かせるということが予め分かっていたので、それを実行するために必要な最低限の点検をエレベーター会社に依頼しました。
高層階の住人にとってエレベーターは重要なライフラインとなりますので、非常用エレベーターだけでも動かすことができれば自宅に帰ることができます。
点検を受けることができたので、地震発生の翌日16時には、停電が続く中で自家発電機装置により非常用エレベーターを動かすことに成功しました。震災前から、このような事態があった場合にはすぐに最低限の点検をしてもらえるよう、エレベーター会社と覚書を交わしておいたことが功を奏した形です。
通常は、停電復旧後にエレベーター会社が点検を行い、それからやっとエレベーターが使えるようになります。実際に停電が復旧したのは非常用エレベーター稼働開始の3時間後でした。

――東日本大震災後、新たにはじめた取り組みはありますか。

杉山:まず、震災を経験して新たにわかったことや足りない点などをマニュアルにまとめる作業を行いました。
参考にさせていただいた元のマニュアルは非常にページ数の多いものでしたが、それでは住民があまり読んでくれないという話を聞いていました。
管理組合の理事などの限られたメンバーに配布したり、共用スペースなどに備え付けたりする「詳細版マニュアル」と、8ページほどで要点をカラフルに読みやすくまとめたカラー版の「簡易マニュアル」の2種類を作成し、後者を全戸に配布しました。

また、管理組合理事会として、すべてを管理組合が主導で行うのではなく、災害時には積極的に自助(自分のことを自分ですること)と互助(近隣の住民同士で助け合うこと)を中心とすることを目指しました。住民の多い当マンションでは、理事会等の限られたメンバーだけでは手が足りなくなってしまうからです。

安否確認ステッカーの導入をしたのもそのためです。マグネット式のステッカーをドアの前に貼ってもらうことで、支援の要・不要を知らせてもらえれば、安否確認が迅速にできるようになります。東日本大震災時には、自治会長が自ら1件ずつ声を掛けたので、非常に時間がかかりました。この時は、数十件声を掛けたところで、免震装置のおかげで建物内の被害が少ないことが分かったので、全戸に声かけを行う事はしませんでした。それでも大変労力のかかる作業でした。
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小松:このマンションでは、基本的に2フロアで1班という単位で班分けをしています。
その中で、震災前から自主的に住民同士の懇親会を行っている班があり、その班は住民同士が顔見知りになっていたことから、他のフロアの住民よりも震災直後にスムーズに協力しあえていたことがわかりました。そこから、普段から近隣住民同士の親睦を深めておくことが大切だということを学び、震災後から班ごとの懇親会を行うことにしました。
近隣住民の顔を知っているというのは、日常生活上の近隣トラブルを避ける意味でも効果が大きいと思います。今後も懇親会や防災訓練など各種イベントを積極的に開催していきます。
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積極的な提案が発注につながった大規模修繕

――ここからはこのマンションで行われた大規模修繕工事の内容について伺わせていただきます。どのような点を修繕工事の重視ポイントとして選定されたのでしょうか。

佐々木:震災の影響ですべての工事の単価が上がっていたため、予算内で収まるかどうかが一番の重視ポイントでした。
そのため、大規模修繕工事は、コストを安くするために施工会社を新聞で公募し、複数の見積もりを取りました。ただ、安ければいいという訳ではないので、価格、品質、会社規模、実績などの項目を理事会が点数化して、総合的なポイントが最も高い会社を選びました。住民全体に対して、公平な審査により施工会社を選定しているということを理解してもらうためにも、新聞公募や施工会社選定は公明正大に行いました。

実施する工事項目については、長期修繕計画上にある工事内容と、実際に建物を点検してみた結果とを比較することで決めていきました。この作業は新聞公募の前に実施していますが、1年程度かかりました。

杉山:震災の影響で、長期修繕計画で予定していた価格より施工単価が上昇していました。費用圧縮のため、工事の内容についても緊急性の低いものについては先送りする形をとりました。
――工事期間中での印象的な出来事がありましたらお聞かせください。

二上:作業員の皆さんは改修工事に非常に慣れていらっしゃるので、工事中は安心して見ていられました。月に1回、現場での工事状況の説明などを行う定例会議があり、疑問に思っていることや進捗状況の確認などもそこでしっかり共有できましたので、不安感はあまりなかったですね。400世帯ありますので、マンション住民から細かい質問はいくつかありましたが、理事会などで随時説明をしているおかげで大きなトラブルはありませんでした。

杉山:月1回の工事定例会議のほかに、理事会も月に1回開催していました。現場代理人さんにはそこにも出席いただいて、工事についての報告をしてもらっていたので、修繕担当の理事は2週間に1回は建装工業(株)さんに会うこととなり、密にコミュニケーションを取ることができました。

――建装工業(株)に依頼してよかったと思える点などがもしあればお聞かせください。

佐々木:工事期間中はこまめに要望に対応してくれている点が非常に良かったです。住民からも後に取ったアンケートでも、バルコニーに張られた防水シートに高級感があって良かったなど、非常に好評でした。工事終了後のアフターメンテナンスにも期待しています。

杉山:今回提案いただいた3社の中で、建装工業(株)さんだけがいろいろと積極的な提案を行ってくださいました。
キッズルーム(改修後は広瀬ホールに名称変更)は、当初はガラス扉の引き戸にしようと考えていたのですが、建装工業(株)さんには自動ドアの設置を提案していただきました。実際に導入してもらったところ、非常に入りやすくなって助かりました。他にもいくつかの提案をいただき、それでいて工事価格は他社と比較して抑えられており、依頼してよかったと思っています。
ライオンズタワー仙台広瀬
ライオンズタワー仙台広瀬

居住者へ情報をわかりやすく伝える努力を怠らない

――大規模修繕工事に関するお話をありがとうございました。ここからは日常的な管理組合の運営方法のお話に移ります。
管理組合として、居住者の皆様から出される様々な意見を、どのようにまとめていらっしゃるのでしょうか。

佐々木:住民からの意見や問合せなどは1階に設置している投書箱に入れてもらって、その内容を理事会で検討した上で住民に丁寧に説明し納得してもらっています。
それでも、マンションができてから十数年たつと、全体の4割ほどの住民が入れ替わっていて、若い家族層が増えてきたと感じています。そのためか、遊んではいけない場所で子どもが遊んでいたり、持ち込み禁止の自転車を建物内に入れるなど、マンション新築当時に決められたルールが、最近入居された住民の方々にしっかりと浸透していないケースが目立ってきています。こうした事例への対応のほか、それらルールの周知のために、独自の広報誌の作成にも力を入れています。

――ライオンズタワー仙台広瀬の広報誌「ひろせの杜」は、東北マンション管理組合連合会の機関紙「M-net」で行われた、マンション広報誌のコンクールで最優秀賞を受賞されていましたね。カラーで写真や図表を交えて、管理組合の活動や催しもののお知らせをわかりやすく掲載するなど、非常に凝った作りをされていることに感心いたしました。

小松:ありがとうございます。現在2ヵ月に1号のペースで発行し全戸配布しています。これからも情報をいち早く把握してわかりやすく丁寧に伝えられるように心がけながら紙面づくりをしていきます。

――運営について悩まれている他の管理組合の方にアドバイスなどありましたらお教えください。

杉山:理事の全数を1年の任期で改選する輪番制にしている管理組合が多いですよね。それでは管理組合についてよくわからないうちに任期が終わってしまい、腰を据えてマンションの問題に向き合えないという問題が出てきます。

埼玉県のタワーマンションを見学する機会があったのですが、そこでは理事の任期を2年として半数を改選し、1年目に副理事長をした方が、2年目に理事長に就任するというスライド方式を取っていました。1年目での経験が生かされ、じっくりと管理組合運営ができると思います。これは他のマンションでも採用できる方法です。

当マンションは、新築当時から理事の選出方法を全て立候補制としており、最初は12人の立候補者で理事会が始まりました。
修繕計画を確認する中で、機械式駐車場のメンテナンス費用に大きく圧縮できる余地があることが分かりました。機械式駐車場の廃止を検討しカーシェアリングを進めるなど、設立当初から非常に積極的な活動を行ってきました。他にも支出内容を1つずつ見直し修繕積立金の値下げも行いました。
こうした活動が住民全体にも認められて、当時住んでいた方々には、理事会に任せておけば大丈夫だなという意識が浸透していったと思います。
ライオンズタワー仙台広瀬
ライオンズタワー仙台広瀬
――今後のマンションの管理組合としての展望をお聞かせください。

佐々木:入居者が高齢化してきており、老人ホームに移る方もいます。しかし、将来的に老人ホームに入れない人もでてくるでしょう。そうなった時に、できるだけ長く住み続けられるマンションであることが必要です。

このマンションは、宮城県のモデル事業として、地域包括支援センターなどによる高齢者向けの相談窓口の設置や、食事提供サービスを行う会社の協力をいただくなどの実証実験を行いました。また、転倒防止の運動教室は既に10年以上継続して行っています。
高齢者が長く住み続けられるマンションにすることを目標に、モデル事業のような取り組みを継続するための組織づくりや、今ある課題に、どのように対処していくかを模索しながら運営していきたいと考えています。

小松:現在、当マンションには、理事会、自治会、子ども会があります。理事会・自治会のメンバーは高齢化してきていますので、負担が一部に集中しない仕組みを作ったり、過去の運営情報をいつでも見られるデータの置き場所を作るなどの取り組みを進めています。
理事会、自治会、子ども会が連携して運営を進めていくことが重要だと思っています。
ライオンズタワー仙台広瀬
――
実際に大震災を経験し乗り越えてきた、ライオンズタワー仙台広瀬 管理組合法人の皆様の実体験に基づく防災対策や管理組合運営の取り組み方法は、全国のタワーマンションの管理組合の方々にとって大いに参考になる事例になると思います。
ありがとうございました。

(2019年8月2日記事更新)

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