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マンションの価値工事 具体的に何をすれば良いの?
「マンションの資産価値」といえば、「物件の市場価格」そのものをイメージする人が多いのではないでしょうか。
しかし、実際には建物(構造・設備・機能・広さ)や周辺の立地条件(交通・環境など)によって価格は上下します。
このことから、マンションの価格は建物や立地条件と密接に関わりあっていることがわかります。
今回は、価値工事が建物の価値を維持向上していくうえで必要な理由と、マンションの資産価値向上が見込めるおすすめの価値工事の種類とポイントについてまとめました。
目次
1. なぜマンションの価値工事が必要なのか?
2. 価値工事は具体的に何をすれば良いのか?
3. 「マンション管理計画認定制度」と「マンション管理適正評価制度」
なぜマンションの価値工事が必要なのか?
マンションの資産価値は、築年数が経過すれば必然的に下がっていきます。
大規模修繕工事は多額の資金をかけて実施しますが、これは建物や設備の劣化箇所を修繕して原状回復を図るための工事です。
これによって大規模修繕工事は資産価値の低下を緩やかにすることはできますが、現状維持、または今以上の資産価値にすることは、一般的に困難といえます。
そこで原状回復に加え、マンションの資産価値に寄与する工事(価値工事)を実施しグレードアップすることでマンションの資産価値向上が見込めます。
国土交通省も高経年マンションの急増を背景に、元の性能に原状回復する「修繕」に加え、「改良」(社会的劣化や住環境水準の向上)をプラスした「改修」を行う必要性を訴えています。
価値工事は具体的に何をすればよいのか?
それでは、マンションの資産価値向上が見込める工事とはどのような工事を実施すればよいのでしょうか?
以下、具体的に説明していきます。
●耐震改修工事
1981年以前に建てられたマンションは旧耐震基準で建てられているため、今後、巨大地震が発生したときには、建物の損壊や人命に危険を及ぼす可能性が指摘されています。
こちらに該当するマンションは緊急性が高いので、まずは耐震改修工事を優先的に考えなくてはならないでしょう。
耐震補強を実施すればマンション全体の安全性や耐久性が向上するので、資産価値向上につながります。
●バリアフリー化工事
居住者の高齢化に伴い、マンションにも充実したバリアフリー化が求められます。例えば、スロープを設置し段差を解消したり、廊下や階段へ手すりを設置する工事が該当します。
バリアフリー化を進めて高齢者が安心して暮らせる居住空間に整えることは、生活の質向上に直結する重要なポイントとなります。
マンション設備にバリアフリーという価値を追加することは、マンションの資産価値を十分に高めるといえるでしょう。
●断熱改修工事
外壁や屋上、床などに断熱性の優れた素材を追加・変更することで、快適な住環境をつくることができます。
建物内の熱が屋外に移動しにくくなるので、建物全体のエアコンの消費量が減少するなど、コスト削減や省エネなどの観点からも効果的です。
●防犯改修工事
セキュリティー面を強化することで、居住者は安心感を得ることができます。
最近はオートロックの導入や、非常階段や駐車場に防犯カメラを設置するマンションが増えています。
ほかにも、モニター付きインターホンやエントランスドアのガラスを防犯ガラスに交換するなど、マンションの防犯力を高めることは一層の価値向上にもつながります。
●外壁塗装工事
外壁塗装を行うと見た目が美しくなるだけではなく、汚れや紫外線に強い塗料にグレードアップするとマンションの資産価値はさらに向上します。
耐用年数や耐久性に優れたフッ素樹脂塗料や、紫外線があたると表面の汚れを分解する光触媒塗料など、他にも断熱性や遮熱性能に優れた様々な塗料があります。
●駐車場・駐輪場等改修工事
駐車場や駐輪場のスペース不足が生じている場合は新たな区画を整備・検討してみてはいかがでしょうか。スペースに余裕がない場合は、安全面からカーブミラーなどの設置も有効です。
また、駐輪場で自転車がはみ出すなど通行の妨げがあれば、駐輪場の拡大や駐輪機の設置などを検討します。
●エレベーター改修工事
エレベーターは新しくするだけでなく、防犯や防災の機能を追加することが大切です。
他にも「挟まれ事故」などの危険性も検証し、問題があればシステム自体を刷新する必要もあるでしょう。
【余裕があれば検討したい工事】
●エントランスの整備
エントランスの玄関扉が自動扉でない場合は、自動扉に更新する事をお勧めします。また、床や壁、扉などをおしゃれなものに交換すると、マンションの印象は大きく変わります。
更に、ポストや掲示板などもあわせて交換すれば、エントランスは統一感のあるステキな空間に生まれ変わります。
照明をLED化し、ダウンライトに変更することも、大幅なイメージアップにつながります。
●緑化工事
マンションの緑化は居住者に潤いを与えるため、価値ある取り組みになります。
敷地内に樹木を植えてマンション内に緑が増えることで、癒しやくつろぎの雰囲気が生まれます。壁面の緑化工事などは、居住者や来訪者に対して安らぎと好印象を与えることができます。
●電気自動車の充電器
急速に普及が進む電気自動車への対応として、専用充電器を設置することはこれからのマンションの付加価値として一層高まるでしょう。
●侵入防止フェンス
フェンスを設置することで不審者の侵入を未然に防ぎ、マンションの防犯力向上とセキュリティー面の強化につながります。
●玄関ドア
玄関ドアを意匠性と強度に富んだ化粧鋼鈑製に変更すれば、大きな地震があってもドアの開閉に支障を来しません。
断熱性能も高いので、省エネにもつながります。
●非常用足元灯
節電効果に優れたLED照明を用いた足元灯で、夜間の安全を確保します。
また、光の演出効果で印象もアップします。
●サッシュ(サッシ)の更新
サッシュを複層ガラス窓へ交換することで、室内の断熱性や遮音性を向上させることができます。
断熱改修工事とあわせて検討するとよいでしょう。
「マンション管理計画認定制度」と「マンション管理適正評価制度」
マンションを評価する制度として、2022年4月にスタートした「マンション管理計画認定制度」があります。
この制度は管理組合が管理計画を自治体に申請し、基準を満たしていれば認定を受けられるというものです。
管理計画の認定基準は、「管理組合の運営」「管理規約」「管理組合の経理」「長期修繕計画の作成および見直し等」などの項目があり、30年以上の長期修繕計画を作成して適切な修繕積立金を徴収することなどが求められています。
その他にも上記と同じマンションを評価する制度として、マンション管理の状態や大規模修繕の工事内容が適正なマンションの指標として、「マンション管理適正評価制度」があげられます。これは管理会社の業界団体であるマンション管理業協会が運営する制度で2022年4月にスタートしました。
この制度はマンションの管理や運営状態について30項目を評価するもので、大規模修繕工事や長期修繕計画についても「修繕積立金の金額」「長期修繕計画の有無」「直近5年間の共用部分の修繕履歴情報」などが評価対象となっています。
これらの評価項目は点数化され表示されます。例えば、直近5年間の共用部分の修繕履歴情報があり竣工図面などが保管されていれば10点、履歴情報がない場合は0点といった具合です。
また点数は合計されて、星の数で0から5まで6段階の評価がつきます。合計点が90〜100点なら星5つで「特に優れている」、0点以下なら星0で「管理不全の疑いあり」という評価になります。
マンション管理業協会のサイトからはマンションごとの点数や星の数、さらに管理委託形態や大規模修繕工事の実施予定、修繕積立金の徴収などの情報も閲覧できます。
マンションの資産価値を維持向上させるうえで、大規模修繕工事の実施や長期修繕計画の立案は重要なポイントです。しかし、内容が専門的なので従来は適切かどうか判断できないのが実情でした。
しかし今後は、「マンション管理計画認定制度」や「マンション管理適正評価制度」への登録や認定を受けるマンションの増加に伴い、自分が住むマンションの管理体制の見直しに活用することができるでしょう。
さらに、中古マンション購入の際には、そのマンションの資産価値の判断材料として、これら制度が役割を担う可能性もあるでしょう。
これら2つの制度については、下記の記事でも詳しく説明しております。
⇒「マンション管理を見える化! 2つの新制度「管理計画認定制度」と「マンション管理適正評価制度」の違い」
マンションの資産価値には2つの意味合いがあります。
一つは「物件の市場価格」、そしてもう一つは「居住者の住み心地」です。
「物件の市場価格」は、先述のように大規模修繕工事では影響を与えることは困難といえます。しかし、「居住者の住み心地」については、管理計画の内容次第では高めていくことが可能でしょう。
大規模修繕工事にあわせて資産価値を向上させる工事を実施すれば、長期的にみても費用対効果が望めますが、予算がかかることから工事の優先度を考える必要があります。
大規模修繕工事では、まずは居住者の生活に深く関わる箇所や設備の劣化修繕を優先して行い、そのうえで余剰資金を用いて段階的に改修工事を実施し、資産価値の低下防止とさらなる資産価値向上を目指していくのがよいでしょう。
「居住者の住み心地」を高め、また追求していくためには、管理会社など業者任せにはせず、管理組合自らが将来にわたる工事の内容、優先度、資金計画などについて真剣に検討することがポイントといえます。
国土交通省によると、築40年を超えるマンションは2021(令和3)年末の時点で約115万戸以上あり、10年後には2.2倍の約249万戸に、さらに20年後には3.7倍の約425万戸になると推測されています。
また、これら高経年マンションの多くでは居住者が高齢化し、さらに近年の工事費の高騰により、大規模修繕工事などに必要な修繕積立金が不足傾向にあるのが実情です。
上記の現実を踏まえ、このような厳しい状況下であるからこそ将来を見据えた資金計画と工事計画を作成し、運用していくことが重要なのです。
居住者が高齢になっても住み心地がよく、将来的にさらに資産価値の高いマンションとしていくために、今回ご紹介したような価値工事を計画・実施されてはいかがでしょうか。
■あわせてお読みください。
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■この記事のライター
吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部長
愛知県出身 職能能力開発総合大学校(当時:相模原市)卒業
マンション管理士・一級建築施工管理技士・マンション維持修繕技術者を有し、大規模修繕工事の営業に従事した経験者
※建装工業株式会社公式HPはこちら
(2023年10月30日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。