毎週月曜日更新

毎週月曜日更新

タグ一覧

安心・安全なマンションへ―子どもを危険から守る環境づくり

犯罪機会論 防犯

子どもを危険から守るために、「不審な人には近寄らないように」と教えたことはありませんか?しかし、小学生以下の子どもが声をかけられて連れ去られた事件の約8割は、騙されたことに気づかずに自発的についていったという調査報告もあるように、実際には「不審者」を見分けることは難しいといわれています。
一方、海外の防犯対策では「人」に注目するのではなく、「景色」に注目する方法が取り入れられていて、日本でも注目されています。
子どもの被害を未然に防ぐ環境づくりは、SDGsの目標である「誰もが安全に住めるまちに」に関連することでもあります。
今回は、「景色」を基にしたマンションにおける子どもを危険から守る防犯対策について考えたいと思います。

目次
1. 子どもを危険から守る 犯罪抑止になる環境づくりが「防犯」に?
2. 防犯は景色に注目しよう! 危険な場所を判断する景色読解力
3. マンションで行える、子どもを守る環境とはどんな環境?

子どもを危険から守る 犯罪抑止になる環境づくりが「防犯」に?

犯罪機会論 防犯

子どもを危険から守る第一の防犯対策は、犯罪を未然に防ぐ「犯罪抑止の環境づくり」です。
防犯対策には「声をかけられた時点で被害に遭い始めている」と考える必要があります。
まず、子どもが「不審者」に騙されてしまう理由や、マンションの防犯性を高める環境づくりについて解説します。

●子どもが騙されてついていってしまう理由
警察庁の誘拐事案に関する調査によれば、15歳以下の被害者の約半数は、騙されて自分からついていったことが報告されています。騙される理由としては以下のようなものがあります。

・そもそも騙されている意識がない。
・とっさの時に声が出ない、または動けなくなるなど「フリーズ」「凍り付き」と呼ばれる状態になりやすいため、叫ぶ・逃げる・抵抗するといった判断ができない。
・何度か見かけたり話したことがあれば「知らない人」ではなくなり、「知っている人=安全な人」になる。

仮に「不審者」が近所に住んでいる住民や家族の知人である場合は「知っている人=安全な人」という認識になりやすく、自分が危害を加えられるとは思いません。また、「不審者」は、警戒心を解くため、事前に子どもと親しくなるなど、用意周到に犯行に及ぶ可能性もあります。つまり、子どもを危険から守るには、「不審者」が子どもに接触し難いような環境をつくることが大切です。

●「犯罪抑止になる環境づくり」とは
犯罪を未然に防ぐには「遭遇したらどうするか」ではなく、まず「遭遇しないためにどうするか」という視点が重要となります。「防犯抑止になる環境づくり」とは、犯罪への入口となる「不審者」から声をかけさせない環境作り、「犯罪が困難」と思わせる環境づくりです。

それでは、どのような環境が犯罪抑止になるのでしょうか。犯罪が起こりそうな危ない場所を見つけて、改善することで犯罪抑止力を高めることができます。そのためには危ない場所を判断する「景色読解力」を高めることが必要です。

防犯は景色に注目しよう! 危険な場所を判断する景色読解力

犯罪機会論 防犯

子どもを危険から守るためには、犯罪を未然に防ぐ「犯罪抑止効果が高い環境づくり」が重要です。
犯罪が起きやすい危険な場所には、「景色の特徴」のパターンがあるといわれています。
冒頭にもお伝えしてように海外では、犯罪抑止や防犯として、「人」ではなく「景色」に注目する方法がとられています。相手の特徴や不審な動きではなく、危険な場所の景色(環境)を把握し、安全性の高い景色(環境)に改善することは、防犯対策となります。

危険な場所を判断するためのキーワードは次の2つです。

入りやすい場所:誰もが入れる場所であり、犯行後すぐに逃げられる場所
見えにくい場所:犯行が目撃されにくい場所

つまり、入りやすく見えにくい場所が「危険な場所」であり、入りにくく見えやすい場所が「安全な場所」ということになります。例えば、地下駐車場や塀で囲まれた駐輪場、背の高い生け垣などは入りやすく見えにくい「危険な場所」となります。一方、内側が見えるフェンスのある場所は「不審者」が入りにくく周囲から見えやすい「安全な場所」といえます。

ほかにも、壁の落書きやゴミの散乱、放置自転車なども注意が必要です。
これらは周囲の関心がないことの目印になってしまう可能性があります。さらに、意外かもしれませんが、「人通りの多い賑やかな場所」にも注意が必要です。人が多い場所では、周囲の視線が分散し、人通りが途切れたときに狙われやすくなる傾向があります。

犯罪を防ぐためには、危険な場所を判断するための「景色読解力」を高めることが重要です。例えば「死角があるから危険」「街灯がないから危険」といった漠然とした考え方ではなく、具体的な危険要素に注目する必要があります。

そのうえで、マンションの「入りやすい場所」「見えにくい場所」を見つけて、改善していくことも大切です。子どもを犯罪から守るためには、「不審者」が簡単に接近できないようにする必要があります。

マンションで行える、子どもを守る環境とはどんな環境?

犯罪機会論 防犯

マンションにおいて、子どもが犯罪に遭いにくい安全な環境を作るためには、犯罪抑止の要素として次の3つが重要です。
・領域性(入りにくくする)
・監視性(目を届きやすくする)
・抵抗性(抵抗力を上げるバリアを設置し、犯罪を実行させない)

これらの要素を組み合わせた総合的な対策が必要です。

●領域性(入りにくくする)
犯罪者を寄せ付けないための物理的・心理的な範囲を指します。マンションへの侵入を防ぐ「領域性」を高める防犯対策は以下のものが挙げられます。
・ゲートやフェンスの設置
・マンションの広場の遊具にはフェンスを設けるなどの整備
・マンションのペットクラブでの防犯パトロール

ゲートやフェンスの設置は、敷地内への侵入を防ぐ防犯対策です。簡単に侵入できないことを認識させる心理的効果が、犯罪抑止につながります。また、マンションの共用部分である広場のベンチの設置については、座った際に遊具の方向を物色できないような向きにすることも防犯対策となります。また、防犯パトロールは犯罪防止成果が期待できるのでおすすめです。

●監視性(目を届きやすくする)
「監視性」とは、目の届きやすさのことです。犯罪は人の目がないところで行われるため、以下のような「監視性」を高めることは有効な防犯対策となります。

・防犯カメラやセンサーライトを導入する。
・駐輪場の『入りやすく見えにくい』を改善する。
・エレベーターに鏡を設置する。
・地域の清掃活動をする。
・人の目が届きやすいよう植栽を剪定する。
・エントランスやゴミ置き場を清潔にし、花壇の見栄えを日常的に整える。
・セキュリティシステムを導入する。

オートロックがない場合は、「不審者」を威嚇するセンサー付きライトを導入しましょう。動くものに反応して自動で光るセンサー付きライトは「威嚇する」「セキュリティの高さをアピールできる」など、「不審者」に心理的なプレッシャーを与える防犯抑止の手段となります。
また、人の目が届きやすいよう、植栽の剪定も重要な防犯対策です。エントランスやゴミ置き場は常に清潔にし、花壇の見栄えを整えることで、周囲に管理の行き届いた「監視性」の高い環境を示すことができます。特にエントランスや1階通路、非常階段、駐輪場や駐車場などのうち、『入りやすく見えにくい場所』には防犯カメラを設置し、常に監視の目を行き渡らせることで、防犯の強化につながります。

●抵抗性(抵抗力を上げるバリアを設置し、犯罪を実行させない)
マンション周辺に物理的なバリアを築くことで「抵抗性」を高め、犯罪を防ぐことも大切です。具体的な防犯対策として、以下のようなものがあります。

・防犯ガラスに交換する
・窓に二重錠(補助鍵)や防犯フィルムを設置する

「抵抗性」は、「不審者」をマンションに寄せ付けない「領域性」に対する、より踏み込んだ防犯対策であり、侵入を防ぐ犯罪抑止の最後の砦ともいえる重要な要素です。警察庁の資料によれば侵入に5分かかると侵入者の約7割は犯罪をあきらめるとされており、時間と騒音を伴う防犯ガラスは犯罪抑止に大きな効果が期待できます。

マンションにおける侵入経路の多くは、表出入口や窓です。これらは共用部分であるため、個人で対策することは難しい部分ですが、マンション全体では、防犯情報や住民向けの注意喚起を掲示するなどして管理意識を示すことで「抵抗性」を高めることができます。

子どもは「不審者」に騙されている意識がないまま、被害に遭ってしまうことがあります。警視庁が考案した防犯標語「いかのおすし」のような「行かない」「大声を出す」といったアドバイスも、犯罪の入口である声かけを完全に防止することは難しく、犯罪のプロの前では効果が薄いかもしれません。

子どもの被害を未然に防ぐためには、周囲の大人が景色読解力を高め、「不審者」が子どもに接触できないような犯罪抑止になる環境づくりを行うことが大切です。

■あわせてお読みください。
マンションセキュリティ、防犯は大丈夫? 最上階も狙われる?
マンションセキュリティーは大丈夫? マンション管理組合が注意したい大規模修繕時の対策
ノーマライゼーションの視点とユニバーサルデザインでみんなが住みやすいマンションへ
どうなっているの? 世界のマンション事情 〜韓国編〜


■この記事のライター
熊谷 皇
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。建築環境工学(温熱環境、省エネ等)を専門とする技術者。国土交通省 住宅の省エネ基準検討WGの委員、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校等の講習会講師、日本建築ドローン協会(JADA)のWG等の委員を歴任。

(2023年11月20日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

おすすめコンテンツ