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管理組合に聞く 住民主体による大規模修繕工事とコミュニティ活動でマンションを100年持たせる取り組み 〜労住まきのハイツの事例〜(前編)

労住まきのハイツ
高度成長期に建設された多くのマンションは、建物の老朽化という現実に直面しています。国土交通省が2018年末に行った調査によると、築後40年以上が経過した分譲マンションの戸数は全国で約81万4000戸となっており、その数は10年後に約198万戸、20年後には約367万戸へと急増する見込みです。

この現状において、「このマンションを100年持たせる」をスローガンに掲げ、日常的に活発なコミュニティ活動と住民による建物の自主点検を行いながら、管理組合主体の責任施工方式による大規模修繕工事を成功させた、築45年になる大規模なマンションがあります。
今回は、大阪府枚方市にあるそのマンション、「労住まきのハイツ」の管理組合の方々にお話をうかがいました。

今回の取材内容は、二部構成でお送りいたします。前編では住民主体で行った大規模修繕と、管理組合の活動をメインに、後編ではマンションでのコミュニティ活動について詳しくご紹介します。

(聞き手:KENSO Magazine編集部 [リボンハーツクリエイティブ株式会社])

管理組合法人 労住まきのハイツ
(写真後列左から)
・瀧 道行 様(修繕委員)
・木村 亮平 様(監事)
・森本 正明 様(修繕委員)
・尾崎 孝光 様(修繕委員長)
・立石 裕稔 様(監事・「かけはし」代表)
(写真前列左から)
・西田 彌八郎 様(修繕委員)
・田中 正信 様(修繕委員)
・竹田 順一 様(修繕委員)

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目次
「自分たちで考え自分たちで守る」管理組合に
責任施工方式による大規模修繕工事に挑戦
業者任せにせず、できることは修繕委員会自ら行う
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「自分たちで考え自分たちで守る」管理組合に

――マンション竣工からしばらくは管理会社任せの体制だったそうですが、2回目の大規模修繕工事は管理組合主体で行い、3回目はコンサルタントも起用せずに大規模修繕工事を成功させたとお聞きしました。住民である管理組合主体になったきっかけと経緯はどのようなものだったのでしょうか。
労住まきのハイツ
尾崎:「労住まきのハイツ」は1975年に1号棟・2号棟が、翌年には3号棟・4号棟が竣工し、同時期から管理組合の活動も開始したのですが、発足から22年間は管理会社に“お任せ管理”をしていたので、管理組合の活動実態がほとんどなく、不適切な建物・設備の運営が続いていました。

その弊害が暴露されたのは、1998年4月に管理会社から2回目の大規模修繕工事が提案された時です。その内容は、今では一般的な長期修繕計画もない状態で、修繕積立金が1棟分しか貯まってないため、あるだけの積立金を使って4棟のうち1棟だけの修繕工事をする、というとんでもないものでした。
労住まきのハイツ
木村:そこで管理費会計の実体を調べてみたところ、管理会社が起用した工事会社が高い金額で手抜き工事をしていたり、管理事務所の消耗品を売れるほど大量購入していたり、電話の高額な私的利用をしたりなど、管理会社のずさんな会計管理が続々と判明しました。
その結果、「もう管理会社には任せておけない、自分たちで考えて自分たちで守る」という方針の下、住民主導の管理組合へと変わることになったのです。
その後、委託管理の総見直しや長期修繕委員会の発足など、体制の立て直しに専念する必要があったため、2回目の大規模修繕工事にこぎつけたのは、1998年の提案から4年が経過した2002年でした。

責任施工方式による大規模修繕工事に挑戦

――2002年の2回目の大規模修繕工事と、2017年に行われた3回目の大規模修繕工事はどのような形で行われたのでしょうか。

尾崎:2回目の大規模修繕工事は、コンサルタントの指導の下で、見積仕様書を作成しました。材料メーカーと使用材料のグレードの決定、工事会社の選定および工事中の打合せは管理組合(修繕委員会)が行い、費用の大幅削減と適正な工事を達成しました。また、工事前にコンサルタントから修繕工事の技術的な基礎知識を教えてもらい、工事中には実践を通して学ぶことで、修繕に関する知識を身につけました。
2回目の大規模修繕工事以降に行われた部分的な補修は、第2回大規模修繕工事の元請会社だった建装工業(株)さん1社に依頼していましたので、そこで補修工事の効果的かつ効率的なタイミングなどについて、実践を通して吸収していきました。ささいな補修工事のたびに工事を依頼するのは、効率が良くないなとも思いました。
その後、修繕委員会で年に2回、建物と設備の自主点検を行うようになったため、3回目の大規模修繕工事が行われる前には、建物の状態を修繕委員会が把握できていました。そこで、工事会社の協力さえあればコンサルタントなしでも大規模修繕工事が実施できると考えたのです。そして、経費削減を目的としたコンサルタントなしの責任施工方式(管理組合主導の施行方式)による大規模修繕工事の実行を決めました。そのため、昨今の悪質コンサルタント問題について知る前から、責任施工方式の採用を決めていました。

――責任施工方式による大規模修繕工事に際して重要視したことはございますか。

尾崎:錆びて劣化した手すりなどの鉄製部分の塗装に対しては、高度な作業レベルを求めました。また、修繕委員会も工事についてある程度勉強しているとはいえ専門家ではありませんので、コンサルタントなしの工事であるが故、困った時には建装工業(株)さん自身で解決してもらわなければなりません。そこで、現場作業の管理能力と設計提案力に優れた現場代理人、設計提案の面でサポートできる社内の1級建築士の選任を建装工業(株)さんにお願いしました。

――第3回目の大規模修繕工事を終えていかがだったでしょうか。

尾崎:前回の工事で学んだことを実践し、プロに専門的なアドバイスをいただきながらの二人三脚で、コンサルタントなしの住民主体による大規模修繕工事を無事に実現することができました。
パーテーションボードは、取り替えの予定だった箇所を既存ボードの塗装へと変更したり、バルコニー床のウレタン防水を長尺塩ビシート貼りに仕様変更したりといった建装工業(株)さんの設計提案も、非常にありがたく満足しています。また、労住まきのハイツ内の藤棚を鉄製のものから木製に変更し、管理事務所外壁の意匠を変更するなど、追加設計への対応にも感謝しています。また、鉄部塗装のレベルの高さには感心しました。

――管理組合改革を含めた第2回大規模修繕工事後には、どの程度のコスト削減効果がありましたか。

尾崎:共用電気契約の形態を変更(業務用電力からデマンド料金制度の契約へ)したことで、年間120万円の削減効果がありました。また、人感センサー付きの照明への変更と不要な誘導灯の撤去、加圧給水方式への変更、エレベーターのリニューアルといった改修工事による省エネ効果で、年間149万円を削減できています。他にも雑排水管清掃の実施を毎年から隔年に変えたことで年間60万円、管理人を住み込みから日勤へと変えたことで年間165万円、建物・設備の管理を自主管理したことで年間21万円のコスト削減効果が上がっています。ハイツ内の照明をLED化したことによる年間80万円のコスト削減と合わせると、全体で年間595万円もの効果を上げることができました。
この余剰管理費を利用して、今では「プチカフェ」等の様々な活動の場となっている新集会所を建設できたほか、修繕積立金に振り替えることもできています。建物の自主管理を行うことで「修繕積立金の値上げはせず、臨時徴収もしない」という私たちの方針を実現させることができました。管理費の値下げについて総会で提案したこともありましたが、住民からの要望で、修繕積立金に回すこととなりました。
労住まきのハイツ

業者任せにせず、できることは修繕委員会自ら行う

――住民主体の管理組合がスタートしてから20年が経とうとしていますが、活動を維持できる原動力はどこにありますか。

尾崎:最も大きいのは、理事は1年交代とするという輪番制を取ったことだと思います。2年任期として半分ずつ入れ替えるなど、様々な方式を採用されている管理組合があると思いますが、労住まきのハイツでは1年任期としています。これによって理事の回転を早くし、早期に理事を経験することで、管理組合への参加意欲を高めることを目的としています。実際に、管理組合理事を経験されたことをきっかけに、各種コミュニティ活動へ参加しはじめた方もいらっしゃいます。
また、新しく理事に就任される方を対象に、研修会を行っています。引継ぎ資料も完備していますし、新理事の予定者には就任前の3ヵ月間、理事会に聴講参加してもらうことで知識やノウハウを引き継いでいける体制ができています。研修会の中では、かつての管理会社任せだった頃の第2回大規模修繕工事前の件にも触れていますので、当時は居住していなかった方も含めて、こうした苦い経験も引き継がれていっています。

ただし1年ごとの輪番制にすると、幅広い業務を1年で経験することが難しいため、専門性、継続性、責任性が希薄になる恐れがあります。そこで、「修繕」「植栽」「運営」という3つの常設専門委員会を管理組合内に設置して、その欠点を補うようにしています。各専門委員会には、理事会を兼務するメンバー(理事長、副理事長、その他理事3名)を立てることで、理事会での考え方と各専門委員会での考え方がずれてしまうことのないように配慮しています。また、理事会の中の監事は、理事会と各専門委員会の間の橋渡しのような調整の役割を担っています。理事長を経験されると、翌年は必ず監事を務めるということにもしています。なお、専門委員会の委員長は管理組合の運営を邪魔しないよう、管理組合の理事会には出席せず、委員を兼ねている副理事長が委員会活動内容の要点だけを報告するようにしています。

森本:日常的に十分なコミュニケーションが取れていることも、活動維持の原動力になっています。その上に、様々な活動が成り立っていると感じています。自分の住んでいるマンションを良くするために役に立ちたいという気持ちもあります。

※どのようにコミュニケーションを図っているかについては、後編の「管理組合に聞く 住民主体による大規模修繕工事とコミュニティ活動でマンションを100年持たせる取り組み 〜労住まきのハイツの事例〜(後編)」でご紹介します。

――「労住まきのハイツ」さんでは、修繕委員会の活動と建物の大規模修繕工事は、それぞれどのような位置づけになっていますか。

尾崎:修繕委員会は「100年続くマンション」をスローガンとして、「業者任せにせず、できることは修繕委員会自らが修繕する」をモットーに、建物の大規模修繕までのつなぎ的な小規模修繕を手がけています。修繕委員会の発足当初は、大きな工事についてのみ関わっていく方針でしたが、発足から6年程度経過したころに、建物の状況を把握するためには、日常管理から修繕委員会が積極的に行っていかなければという方針に変更しました。

木村:たとえば、錆びて劣化して穴が開いた鉄製雨水管は、粘着アルミテープを巻いてからビニールテープで保護する応急処置をして、大規模修繕工事までの延命を図ることでコスト削減につなげています。
他にも管理人の業務時間外に発生した漏水の初期対応や、火災報知器作動時の火災確認や誤作動の場合の警報解除などを行っています。こうした小さな工事や作業も、管理組合の中で完結して行えれば、費用の削減にもなるのです。

※「建物修繕引き延ばし支援」については、後編の「管理組合に聞く 住民主体による大規模修繕工事とコミュニティ活動でマンションを100年持たせる取り組み 〜労住まきのハイツの事例〜(後編)」でご紹介します。

尾崎:修繕委員会は、大きな工事を行うこととなれば、大きな額のお金が動く様を見ることになります。節約のために修繕委員会が自ら動いて修繕に取り組んでいる姿が見えるということは、修繕委員会の透明性を高めることにもつながり、住民の理解や協力を得やすくなります。
先ほどの例の他にも、修繕委員会自ら行えるように、専用の機械器具を購入した事例もあります。エアコン増設のために外壁に穴をあけたいという希望があれば、鉄筋を切断してしまわないよう、鉄筋の位置を調べる必要があります。このために、鉄筋探査機を購入ました。アルミサッシ更新工事を行ったときには、引き違い戸も省エネ複層ガラス製の新品に取替のため、旧引き違い戸換気窓を貫通していたエアコンホースを撤去し、新たに壁貫通させる必要があったので、この鉄筋探査機が大いに活躍しました。
労住まきのハイツ
立石:鉄筋コンクリート自体は100年間維持していくことが可能です。修繕などでしっかりと建物を管理し、コミュニティも充実していれば「労住まきのハイツ」も終の棲家として100年持つだろうということで、「このマンションを100年持たせる」を2002年からスローガンに掲げています。

尾崎:5人から10人程度の修繕委員となるメンバーを集めること、修繕に関する用語は勉強して覚えて、建物を点検して状態を知ることは最低限必要になると思います。分からない部分については、コンサルタントや施工会社の力を借りて補うのが良いのではないでしょうか。

木村:活動を始めるには、何か困りごとが起こるなどのきっかけが必要かもしれませんね。

――大規模修繕工事を含めた建物の維持管理について、今後の展望を聞かせてください。

木村:労住まきのハイツは淀川水系の近くに立地しているので、今年の台風19号でも話題となった水害への対策には課題を感じています。そして、これまで行ってきた年2回の建物自主点検をこれからも継続していくことが重要です。


後編記事はこちら
『管理組合に聞く 住民主体による大規模修繕工事とコミュニティ活動でマンションを100年持たせる取り組み 〜労住まきのハイツの事例〜(後編)』


労住まきのハイツ ホームページ
http://www.roujyumakino.com/

【出典元】
国土交通省 築後30、40、50年超の分譲マンション戸数

(2019年12月27日記事更新)

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