タグ一覧
管理組合の理事長に聞く 大規模修繕工事と基本性能を高める改修工事を併せて実施した取り組み 〜練馬区江古田パークマンション〜 前編
「大規模修繕工事」は、劣化や不具合が発生した部分を補修することで、性能や機能を新築時の水準まで回復することを目標とした工事です。
今回は一般的な「大規模修繕工事」に加えて、耐震性・断熱性といった基本性能を高める「改修工事」も併せて行うことに取り組んだ管理組合の理事長へのインタビュー記事をご紹介します。
理事長から「苦労したこと」「印象的なできごと」など、リアルな声を色々と伺うことができました。
是非、これから大規模修繕工事に取り組まれる方の参考になればと思います。
今回の理事長へのインタビュー記事は前編・後編に分けてご紹介します。
目次
1. はじめに理事長の自己紹介をお願いします。
2. 工事を終えた今の率直なお気持ちをお聞かせください。
3. 今回の工事で、「重視したこと」「拘ったこと」を教えて下さい。
4. 今回の工事で、「苦労したこと」を教えて下さい。
1. はじめに理事長のことについて教えて下さい。
私は福井県の雪深い、古い町家が並ぶ城下町で育ちました。
その影響を受けたこともあり、街づくり(都市計画)を学びました。その後、大工棟梁の元で木造を学び、古民家再生を行い、伝統的木造住宅の設計に携わりました。
今は伝統の「木組の家」と「古民家再生」を中心に事務所を経営し、内閣府の地域活性化伝道師にもなっています。
デザインに留まらず、しっかりと古い街並みを残しつつ、歴史を大切にして住まい手の資産を形成していく「生活向上運動」が私のモットーです。
松井理事長(「松井郁夫建築設計事務所」にて)
2. 工事を終えた今の率直なお気持ちをお聞かせください。
正直、ほっとしています。
実は工事前はこのマンションの耐震性に不安があり、孫が遊びにきているときに「もし今地震で建物がつぶれたらいやだな」と感じることがありました。
今回の耐震改修工事と大規模修繕工事を併せて行ったことで、ようやく安心と安全が手に入ったと思っています。
また、工事中はいろいろと大変でしたが、今思えば楽しかったことも多かったです。これで終わりかと思うと少し寂しい気持ちもあります。
3. 今回の工事で、「重視したこと・拘ったこと」を教えてください。
私が学んだ美術系の大学で教わったことのひとつに「美は全てを統合する。」という言葉があります。
本来は「機能美」を表す言葉だと思いますが、デザインは基本性能のバランスが大切であることも意味していると私は捉えています。
外観デザインでは、塗装の色味をアンケートして白とグレーのコントラストで仕上げました。基本性能では、耐震改修に加えて、窓・玄関ドアの更新(気密性、断熱性、遮音性の向上)工事を行いました。
限られた予算の中でこうした基本性能を高める工事を実現できたのは、助成(補助)制度※をうまく活用できたことが大きかったです。
本当はさらに省エネ性・快適性を高める外壁の外断熱改修工事も行いたかったのですが、今回は予算の都合上、断念しました。
これは、次回のテーマとして引き継いでもらいたいと思います。
※助成(補助)制度の対象工事と活用した助成(補助)制度の名称
・耐震改修工事 ⇒ 練馬区の住宅の耐震改修工事等の助成制度
・窓・ドア交換工事 ⇒ 家庭における熱の有効利用促進事業(高断熱窓・ドア)
・窓・ドア交換工事 ⇒ 高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業(断熱リノベ)
リニューアル後のマンションの外観
4. 今回の工事で、「苦労したこと」を教えて下さい。
一番腐心したのは合意形成です。幾度も行われた会合では、できるだけ多くの人を巻き込んで進めるワークショップ(協働作業の場)の技術を用いました。
ワークショップはアメリカで発達した合意形成の技術です。
私は仕事で、建設省(現、国土交通省)の委託で群馬県の八ッ場ダム工事の住民説明会の運営に1年間携わりました。
その時に合意形成のために用いられた手法がワークショップで、建設省の方も一生懸命学んでいました。
私はそれ以後ワークショップの技術を使い、全国で地域のまちづくりを行いました。
ワークショップでは、全ての参加者がフラットな立場で繰り返し討議を行いました。
一方、総会に参加できなかった人への情報共有として、「理事会だより」や「リニューアルニュース」を発行し、ワークショップでの活動を丁寧に記載して発信しました。
また、共同住宅に住むということは、半分は自分の持ち物で、残りの半分は皆の財産という意識が大切であり、皆さんがその意識を持ってもらうように努めました。
一般的にマンションの大規模修繕工事では、着工後に作業が軌道に乗ったら、後は工事会社にお任せする管理組合が多いようですが、私は最初から最後まで全ての工事内容打ち合わせに参加しました。
大変でしたが、一つひとつの品質に納得しつつ進めることができました。
今回の工事では、住戸ごとに給湯器の設置場所がパイプスペースの中や住戸の中等様々で、現状把握だけでも大変な苦労しました。
これまでは明確な基準がない中で、その都度判断していたことに原因があると考えています。
従って、現在、今後の理事になる方のために、今回の工事で苦労した経験に基づいた「リニューアルの細則」をつくっています。
多分、これが今回の大規模修繕工事の「まとめ」の仕事になると思います。
■あわせてお読みください。
・管理組合の理事長に聞く 大規模修繕工事と基本性能を高める改修工事を併せて実施した取り組み 〜練馬区江古田パークマンション〜 後編
・管理組合に聞く 住民主体による大規模修繕工事とコミュニティ活動でマンションを100年持たせる取り組み 〜労住まきのハイツの事例〜(前編)
・管理組合に聞く 住民主体による大規模修繕工事とコミュニティ活動でマンションを100年持たせる取り組み 〜労住まきのハイツの事例〜(後編)
・管理組合に聞く シニア向け生活支援付きマンションで行われた“優しい大規模修繕工事”とは? 〜マンションクリエイティブリフォーム賞受賞・メデカマンション桂の事例〜
・管理組合に聞く タワーマンションにおける防災と大規模修繕への取り組み〜ライオンズタワー仙台広瀬〜
・管理組合に聞く タワーマンションの大規模修繕を技術提案型総合評価方式で臨んだ理由とは
《この記事のライター》
熊谷 皇
建装工業株式会社 MR業務推進部所属
千葉県出身。鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境(温熱環境性能、住宅の省エネ性評価等)。住宅の省エネ基準検討WGの委員、建築環境省エネルギー機構・日本建築センター・職業能力開発総合大学校等の講習会講師の経験を持つ技術者。ライター。
■インタビュアー:建装工業 熊谷 皇、市川 裕樹
■写真撮影:富沢 彰之
(2021年5月17日新規掲載)