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タワーマンションの排水管更新工事に挑む! 〜ザ・シーン徳川園〜 後編

排水管更新工事

前回に引き続き、設備排水管の更新工事を行ったタワーマンションである『ザ・シーン徳川園』をご紹介します。実際の工事を終えて、管理組合理事の江成様・大島様はどのような苦労を重ねて来られたのでしょうか。また、今後の管理組合活動についてもお話を聞いていきます。

こんな人におすすめ
● 排水設備の改修工事・「更新工事」・「更生工事」を検討されている方に
● タワーマンションにお住まいの方に
● タワーマンションでの排水設備の工事を検討されている方に

(写真右から)
ザ・シーン徳川園管理組合
● 江成 務 様(理事長)
● 大島 一成 様(顧問)
建装工業株式会社
● 渡邉 能文(現場代理人)
● 新藤 孝(設備・内装リニューアル事業部 副事業部長)
(聞き手:建装工業 MR業務推進部 大塚麻里絵)

ザ・シーン徳川園排水管更新プロジェクト紹介動画

目次
3. さまざまな苦労を乗り越えて…
3.3. 工事内容の周知
3.4. 工事中の生活制限の周知
3.5. 実際の工事中の打合せ
3.6. ご自宅の実際の工事
4. 給排水設備更新工事に悩まれている他の管理組合の方へのアドバイス
5. 管理組合としての今後の展望
6. さいごに

3. さまざまな苦労を乗り越えて…

今回の工事は、実現までに大変な苦労をされたとうかがっています。構想から実際の施工が完了するまでの長い期間の中で、いくつかのプロセスごとに苦労されたことを教えてください。

3.3. 工事内容の周知

大島:目に見えない部分の工事ですので、工事に対する協力を得るためには、どんな工事をするのかということを居住者に分かりやすく周知する必要がありました。そこで、施工会社である建装工業さんに、居住者に対する説明会をこまめに開催してもらって対応しました。排水管更新工事には排水制限があるので、お部屋のタイプごとに分けての説明会も行ってもらいました。

江成:工事内容や工程が確定しないと、居住者に具体的な説明をすることが出来なかったので、施工会社あってこその説明会でした。2018年2月の定期総会で排水立管と横引管の更新工事を行うということが決定しました。2019年10月の臨時総会では、ECI方式による技術協力会社の決定(建装工業)と、管理会社の設計業務補助業務(より管理組合に近い立場で設計業務を補助)の決定があり、そこから話が更に具体的に進み説明会開催に至りました。ECI方式は、「ベル・パークシティ画地IIG棟排水管更新工事」を見学した時に知り、当マンションもこの方式を採用したいと考えて実現した方式です。ECI方式の採用により、技術協力会社と設計監理会社とが、より詳細な現地調査を行ったので、この調査の節目ごとに説明会を開催して貰いました。

渡邉:専有部調査中や工事説明会後に、居住者様の中には『排水制限をされてしまうと住んでいられない』、『工事期間中在宅できない』、『日程変更してほしい』というご意見もありました。しかし、それらを全て受け入れてしまうと工事自体が行えなくなってしまいます。なんとかご了承いただいて全ての住戸で排水管の更新工事を行うことが出来ました。
また、設備改修工事としてはまだ使用実績の少なかった「KENSO-TV」を導入しました。お部屋のテレビで毎日の工事情報を確認できるというものなので、居住者の皆様の利便性はもちろん、紙でのお知らせの配布を削減してペーパーレス化を図るというエコな取組みでもあります。更に、排水規制の周知など、必ず知っておいてほしい案内はエレベーターのかご内に紙で掲示させてもらいました。お知らせの配布枚数は減らすことができたので、ペーパーレス化に向けて少し進めたかなと思います。

江成:今回の工事は、新型コロナウイルスが感染拡大している中での工事となってしまいました。そこで、施工会社である建装工業さんには、このコロナ対策も十分に行って貰わなければなりませんでした。居住者側から不信感が出てしまうと、これを収束させるのが難しくなり工事が実現出来なくなってしまうからです。排水管の腐食はそうしている間にも進んでしまうので、対策を行いながら何が何でも工事を実施したいと思っていました。消毒や検温カメラの設置など、対策の内容を十分に検討・説明してもらって総会に臨みましたが、それでもやはり反対意見はありました。理事会としても、こうした意見とも対話を重ね、工事実施の議案を総会で通すのに苦労しました。建装工業さんにはかなり頑張ってもらったなと思っています。

大島:今回の工事は専有部に入らなければできない工事ですから、居住者の中には敏感に反応される方もいらっしゃいました。建装工業さんと協力しながら、それぞれのお部屋に応じた対応を個別に行っていきました。

渡邉:排水管更新工事では、専有部に立ち入らなければ工事自体を行うことが出来ません。1部屋だけ工事が出来ない場合、上下階のお部屋にも迷惑がかかってしまいます。施工会社としては、全住戸の工事を実施するために、考えられるひと通りの方法で立ち入り許可のお願いや施工範囲のお片付け依頼、排水制限時間帯のご説明を行うべく、区分所有者・居住者にアプローチします。ご説明・ご了承の状況は随時報告していましたが、いよいよダメで残り時間も少なくなってきた、という段階で理事会や修繕委員会の皆さんにも協力していただきました。最終的には全住戸の工事を終えることができました。理事会・修繕委員会の皆様にはこの場を借りて改めて感謝申し上げます。

江成:当マンションは本当に色々な居住者のいるマンションだなと改めて感じました。しかしどんな方であれ、理事会として言うべきことはきちんと言わなければなりません。

3.4. 工事中の生活制限の周知

排水管更新工事

ザ・シーン徳川園 全景
特徴的な形の塔屋部分は紹介動画でご確認ください

新藤:主に「在宅のお願い」「排水規制」「停電への対応」の3つが大きな生活制限でした。

江成:排水規制期間中、当マンションでは「うっかり排水」してしまう回数がそれなりにありました。建装工業さんには特別な方法を考えてもらいました。

大島:停電に関してですが、エレベーターは3台あり、そのうち非常用エレベーター1台は工事専用として使用していました。残りを1台だけ動かすと、やはりエレベーターの待ち時間が長くなります。そこでクレームは出ましたね。工事中の騒音もあったので、停電期間中は自主的に住まいを移すなんて方もおりました。

渡邉:停電は合計7日間、日中のみで実施しました。ここまで長く複雑な停電作業は、私自身は初めて経験しました。

大島:当マンションはオール電化ということもあり、停電による影響は大きかったかなと思います。お部屋の中まで停電してしまうのは15階まででしたが、16階以上のお部屋でもエレベーターの影響は受けます。

江成:地下駐車場の停電もあったので、この対応も必要でした。非常灯が消えてしまうと本当に真っ暗です。来客用駐車場の使用は禁止し、車の使用も控えるよう周知しましたが、どうしても車を使用する人のために誘導員を配置してもらいました。

3.5. 実際の工事中の打合せ

新藤:設計監理者と施工者の2者打合せは週に1回、発注者も含めた3者打合せは月1回というのがよくある開催頻度ですが、今回の工事では3者打合せを週1回の頻度で行いました。江成様、大島様にはこの頻繁な会議に10ヵ月間にわたってご参加いただきました。大きく尽力をいただきまして誠にありがとうございました。

渡邉:施工住戸が変わるたびにご相談ごとがあるので、そこはタイムリーに行わないと限られた施工日程の中での工事が難しい場面があります。そこで、理事長にお願いして週1回の打合せをご了承いただきました。

大島:当マンションは過去の外壁大規模修繕工事でも、2週間に1回は3者での定例会議を行っていました。それに似た感じかなと思っていましたが、今回はそれよりも更に短い間隔だったので、プライベートの時間が減ったのは確かですね。

渡邉:当初は1回あたり1時間30分程度打合せを行っていましたが、工事が軌道に乗ってくると最終的には40分程度まで短縮できました。

大島:私は毎週打合せに参加していたので、工事のことをよく把握できていたと思います。このおかげで、長期修繕委員会(全9名)の月1回の定例会議はスムーズに進行することが出来ました。

3.6. ご自宅の実際の工事

排水管更新工事

お話をうかがったザ・シーン徳川園20階のパノラマルームからの眺め
名古屋城が見える

大島:当マンションの排水立管は全部で20本あります。このうち、5本が私の家を通っており、使用しているのは2本だけなので、使っていない3本の工事の方が時間がかかるなと思うとちょっと複雑な気持ちにもなりました。ですが、マンション全体としては致し方ないことで、他のお部屋も同じです。ただ、一居住者としては同じように思う人もいるだろうなとは思いました。それと、我が家は2世帯でも利用できるタイプの住戸なので、トイレが2つあります。排水規制中でもどちらか一方のトイレは使えるという期間がそれなりにあったので、あまり不便に感じませんでした。同タイプの住戸に住んでいる方も同様だったと思います。

江成:私の家では、立管2本の工事が関係していました。これが玄関に近い場所にあったので、工事にかかわる範囲が比較的狭く片付けも最小限で済みました。作業中も、居間に行ってドアを閉めてしまえばさほど気になりませんでした。排水規制中はトイレのために、1階に降りなければならないという点はありましたが、それは他のお部屋も同じです。ただ、作業中の騒音はけっこう響きましたね。

渡邉:ザ・シーン徳川園さんは、平面図で見ると中央にエレベーターや非常階段などのコア部分が集中しており、その周りに各お部屋が配置されているタイプのタワーマンションになっています。この非常階段が竪穴になってずっと繋がっているので、ここで音が伝わりやすかったのではないかと思います。また、新しいマンションと比較すると床スラブが薄めなので、これも騒音が伝わってしまう原因のひとつでした。ただ、柱と梁は太めに造られているので、当たり前ですが構造の問題はありません。
配管更新のために配管を切断し、「排水用特殊継手」をジャッキアップ工法で撤去した後に、周囲に詰められたモルタルを壊す作業が必要になります。騒音は、このモルタルを壊す「斫り(はつり)」作業によるものが殆どでした。これはなかなか防ぐのが難しい問題です。

大島:7フロア上での斫り作業が、私の家に聞こえてきたこともありました。

新藤:普段は見えない部分の工事なので、目立った変化は無いかもしれませんが、実際に工事を終えてみて、普段の生活の中で感じる違いは何かありますか?

江成:トイレを流した後に、配管で水が流れている音が若干ですが聞こえるようになりました。うるさいような音ではありませんが、聞こうとすると確かに聞こえます。工事の前はこのような音は聞こえませんでした。

大島:以前は、上下階でトイレを流すと自分の家のトイレの水面が揺れていました。今はそうしたことは無いように思います。

新藤:工事前は配管内の空気の流れがスムーズでなく、配管内に圧力がかかってそのような水面の動きが見られたのだと思います。水が流れる音については、鋳鉄管も今回の新しい配管も遮音性は同程度なので、配管内部に錆とスケールが固着していたことによって音が出なくなっていたのではないでしょうか。

大島:私の部屋では、今回の工事に合わせてユニットバスをオプション工事で交換したので、そこはとても気持ちが良いです。また、以前から洗面化粧台のボールに少しヒビが入っており、合わせて交換してもらいました。

4.給排水設備更新工事に悩まれている他の管理組合の方へのアドバイス

排水管更新工事

ザ・シーン徳川園の西側に位置する日本庭園「徳川園」より
登録有形文化財「黒門」ごしにザ・シーン徳川園が見える

給排水設備更新工事に悩まれている他の管理組合の方へ、アドバイスできることはありますか。

大島:長期的な目線で見ると、個人的には「更生工事」よりも「更新工事」をお勧めしたいです。「更生工事」を採用した場合、その保証期間は10年間、期待耐用年数は20年で、「更生工事」の約20年後にはやはり「更新工事」をしなければなりません。一方で、「更新工事」によって鋼製配管を樹脂製配管に交換してしまえば、そういった心配は不要です。また、「更新工事」を行ったことにより漏水の危険度がかなり低下するので、火災保険の料率が変わってきます。今度の秋に保険料率が上がる予定ですが、当マンションは上がらずに済むと思います。今、保険会社で最も支払いが多い事故は漏水と言われています。そこで保険会社としては、「更新工事」をしてくれた方が支払いの可能性が減って嬉しいんですね。当マンションは今のうちに「更新工事」を選択しておいて良かったと思っています。

渡邉:タワーマンションでの給排水管更新工事では、先に出てきた騒音の発生は避けがたいと思います。タワーマンションと言っても、中心に吹き抜けがあるタイプなど様々なので、実際にどの程度の騒音になるのかは、試験施工などの時に確認されると良いと思います。

5. 管理組合としての今後の展望

排水管更新工事

ザ・シーン徳川園の西側に位置する日本庭園「徳川園」より
木の向こう中央に見えるグレーの建物がザ・シーン徳川園の塔屋

管理組合として、今後の展望をお聞かせください。

大島:当マンションは超高層マンションなので、建て替えは費用の面で難しいのではと思っています。解体費用だけでも莫大な費用がかかります。そこで、当マンションは建て替えの道は選ばずに、メンテナンスをうまく行って100年は維持していきたいと考えています。

新藤:管理会社さんが、長期修繕計画を毎年見直しているとうかがっています。5年に1回、あるいは大きな工事の直前にしか見直さないという管理組合さんも多い中、なぜ毎年見直しを行っているのでしょうか。

大島:これは築12〜13年経過した頃に始めました。1回目の外壁大規模修繕工事の時に、管理会社さんから勧められて始めた取組みです。管理会社に毎年調査を依頼して、その結果を受けて優先度の高い工事・そうでない工事を見極めて、次の年に行う工事を決定しています。調査から総会議案として工事内容をまとめるまでに、3〜4ヵ月はかけてもらっています。毎年調査できるというのは、当マンションのスケールメリットを生かせている点だと思います。

江成:10年前の漏水事故に起因して始まったこの排水管更新プロジェクトを実現することができて、まずは一区切りです。今後は、エレベーター更新工事、2回目となる外壁の大規模修繕工事に加えて、防犯カメラの更新工事も控えています。防災対策も強化が必要です。これらの工事を、いかにして低価格かつ満足できる品質で実施するかが課題です。居住者の高齢化も進んできたので、高齢者に寄り添えるような施策も必要なのかなと思っています。その一方で、理事会役員のなり手不足というソフト面での問題も抱えているのが現状です。

大島:理事は規約上では輪番制になっていますが、実状としてはそれでは運営が上手くいっていません。なり手不足の表れです。今は1期2年を3期分、最大6年間は理事を務めることができます。これは築10年程度経過した時に設けた規約です。それまでは上限が無く、任期が長くなるにつれ良くない噂が聞かれるようになってしまうことがありました。そこで、風通しを良くするためこうした規約を設けました。役員になってくれる方が、この任期の中で長めにお仕事をしてくれています。

大塚:マンションの居住者同士のコミュニケーションはどのように図っているのでしょうか。

大島:新築当時からずっとお住まいの方は、全体の35%程度かと思います。お子さん連れの若い世帯ももちろんいますよ。住んでいる階によっていがみ合うようなことはここではありません。お子さんを通してコミュニケーションが取れている印象です。騒音によるトラブルが出てくることもありますが、知った相手だということで感じ方は全く違ってくると思います。私も、上階の子供の飛び跳ねる音を聞くことがありますが、あのおうちのあの子だなというのが分かるので、全く我慢できないということはありません。集合郵便受けには部屋番号しか表示されていませんが、各戸の玄関に管理組合で一斉に表札を取り付けました。これにより、エレベーターホールでの挨拶がしやすくなりコミュニケーションが活発になったと思われます。他にも年に4回、ザ・シーン徳川園の広報誌を発行しています。

江成:以前に比べると、大きな集合住宅の良くない面(理事を経験する機会が少なく積極的に管理組合運営に関わらなくても居住していける、共用部の工事の検討は他の誰かがやってくれるなど)が進んでいるようにも感じます。理事会運営はこれでは維持していくことができませんので、何とかしたいです。

大島:コロナ禍になる前は、年末の餅つき、秋の運動会後の反省会(懇親会)などを開催していました。そうした場が、未来の理事候補を見つける場にもなっていたのですが、昨年からこれが難しくなりちょっと困っています。ウェブ会議ではこうした活動が難しいですね。また集まれる時が来てほしいと思っています。

6. さいごに


《この記事のライター・インタビュアー》
大塚 麻里絵
建装工業株式会社 MR業務推進部所属
埼玉県出身 東京理科大学理工学部建築学科卒業
一級建築士・一級建築施工管理技士を有し、大規模修繕工事現場にも従事した経験のある女性技術者・ライター
※建装工業株式会社公式HPはこちら

(2021年10月4日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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