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タワーマンションの排水管更新工事に挑む!〜ザ・シーン徳川園〜 前編

排水管更新工事

タワーマンションは、1970年代に供給が始まった超高層の集合住宅です。タワーマンションが築年数を経ていくのに合わせて、タワーマンションの大規模修繕工事も行われていきました。建物の修繕工事といえば、外壁の補修や塗り替えのような街中でもよく見かける工事を思い浮かべるかもしれませんが、築年数を経ていくと他にも様々な工事が必要になってくる場合があります。玄関ドアや鉄製手摺の交換、建物内部の給排水設備の改修工事など、築30年を超えるマンションでは様々な部分で工事が必要になってきます。

今回ご紹介する『ザ・シーン徳川園』は、設備排水管の更新工事を行ったタワーマンションです。タワーマンションでの給排水設備更新工事は、国内での施工例がほとんどなくまだ非常に珍しい工事です。実際の工事のお話をうかがいながら、この希少な工事をどのように実現なさったのか掘り下げていきます。

こんな人におすすめ
● 排水設備の改修工事・「更新工事」・「更生工事」を検討されている方に
● タワーマンションにお住まいの方に
● タワーマンションでの排水設備の工事を検討されている方に

(写真右から)
ザ・シーン徳川園管理組合
● 江成 務 様(理事長)
● 大島 一成 様(顧問)
建装工業株式会社
● 渡邉 能文(現場代理人)
● 新藤 孝(設備・内装リニューアル事業部 副事業部長)
(聞き手:建装工業 MR業務推進部 大塚麻里絵)

目次
1. 今回の工事の概要を教えてください。
2. 今回の工事を計画するきっかけとなった出来事はありますか。
3. さまざまな苦労を乗り越えて…
3.1. 管理組合の合意形成
3.2. 工事内容の検討

1. 今回の工事の概要を教えてください。

江成:ザ・シーン徳川園は、1990年に完成した、地上30階建て、157戸の超高層マンションです。工事自体は、2020年10月から2021年7月までの10ヶ月間でした。しかし、専有部入室も含めた実際の配管状況やリフォーム状況の調査、さらにさかのぼっていくと設計段階から施工会社である建装工業さんには関わってもらっているので、施工会社との関わりという観点では、2019年10月から1年9ヶ月におよぶ長期プロジェクトとなりました。

大島:今回の工事は、マンション共用部である排水立管と専有部横引管を更新する工事でした。こう言ってしまうとよくある工事のように聞こえてしまうかもしれませんが、当マンションは30階建ての超高層マンションです。超高層マンションの排水管更新工事に関しては、他に参考になるような事例は殆ど無い一方で、超高層マンションでは排水管立系に繋がる住戸の数が多く、十数階建ての中高層マンションと同じようにという訳にも行きませんでした。また、ただ排水管を更新するだけではなく、排水能力を向上させるために排水システムを改良することも目的とした工事でした。さらに、排水管の一部がマンションの変電設備室内を通ってしまっており、この部分の工事のために停電が必要な期間もありました。総合的に見て、なかなか特殊な珍しい工事だったのではないかと思います。


ザ・シーン徳川園排水管更新プロジェクト紹介動画

2. 今回の工事を計画するきっかけとなった出来事はありますか。

大島:排水横引管からの漏水事故があったことが大きいです。これは、築20年を過ぎた今から10年ほど前の話です。住戸内に排水が漏れてしまうという事故がありました。排水管にピンホールがあいたことが原因でした。なぜ穴があいてしまったかと言うと、定期的に行う排水管清掃の時に使った洗浄ホースが切れ、金属製の洗浄ノズルごと残っていたためです。異種金属接触腐食による漏水でした。それ以外にも、白ガス管の劣化による漏水が複数発生しました。

新藤:排水管は配管用炭素鋼鋼管(SGP Steel Gass Pipeの略)のうち亜鉛メッキを施された「白ガス管」と呼ばれる配管が使われていました。

大島:異種金属の接触による腐食は、残っていた金属製洗浄ノズルを撤去すれば原因自体は取り除くことができました。しかし、排水管に穴があいてしまったことは事実で、漏水の被害が出てしまったお部屋は数件でしたが、数件で起きればあとはもうどのお部屋で起きてもおかしくありません。金属製洗浄ノズルの件を抜きにしても、経年による腐食が全体的に進んでいる可能性があり、抜管(実際の排水管を部分的に切断して取り出すこと。配管を縦割りにして内部の様子を直に確認することができる。)による全体的な調査に踏み切るきっかけとなりました。また、共用部の工事ですので、居住者に対して平等であるということが重要です。1箇所起きてしまったら全体を点検しなければなりません。漏水対応のための費用も、回数が増えると上限金額に達してしまい、保険では賄いきれなくなってしまいます。各お部屋が個人で加入している火災保険で、漏水もカバーする内容の保険に加入されている方は少数でした。

江成:竣工図面と実際の現場で使用されている配管の種類が異なる部分もありました。図面上では塩ビ管となっていても、実際の現場では白ガス管が使用されている部分がありました。将来的に腐食する白ガス管の範囲が長くなっていたということです。

新藤:当時の建築基準法にはもちろん適合しているので、消防法の観点から検討した結果、設計時の材料が変更されたのだと思います。耐腐食の面では塩ビ管が勝りますが、防火の面では白ガス管の方が勝っています。費用の面でも白ガス管の方が数倍の費用がかかりますので、協議はなされたはずです。

渡邉:実際の工事の際に確認したところ、15階以上の階では白ガス管の距離が1m以上あり、長く採用されていました。これには防火区画が関係していると思います。排水管は壁や床を貫通しているものなので、もし火災が起きた時には別の住戸やフロアに燃え移る貫通孔になってしまう可能性があります。そこで、防火区画(延焼を防ぐために設けられた防火上の区画)を貫通する箇所の配管は、区画境界線から一定の距離の間は一定の基準を満たした燃えにくい材料を使わなければならないということが、建築基準法で定められています。

3. さまざまな苦労を乗り越えて…

今回の工事は、実現までに大変な苦労をされたとうかがっています。構想から実際の施工が完了するまでの長い期間の中で、いくつかのプロセスごとに苦労されたことを教えてください。

3.1. 管理組合の合意形成

排水管更新工事

ザ・シーン徳川園1階ロビーまわりの噴水

大塚:漏水が起きてしまったお部屋では危機感があったかと思いますが、特に問題の起きていないお部屋も含めて、全体の排水管更新工事をやらなければ、という雰囲気は醸成されたのでしょうか。

大島:そこは、理事会発信で居住者に伝えました。数か所で漏水しているので、全体的にも寿命が来ていて工事をする必要がありますという内容で発信していきました。

江成:具体的な動きとしては、抜管による排水管の調査がスタートでしたが、この抜管調査だけでも膨大な作業量になります。管理組合としてもそれなりの体制を整える必要がありました。そこで、「横引管委員会」というものを発足させました。この委員会は、理事会内にある長期修繕委員会から分離独立させたものです。

大島:最も苦労したのは、誰が調査・工事費用を負担するのか、という点でした。マンションの管理規約の基本理念として、「専有部に関しては管理組合ではなく区分所有者の費用負担とする」という大原則があります。これに従うと、共用部である排水立管は管理組合費用で交換しますが、各住戸の衛生器具から排水立管までの横引管は、個人負担で交換するということになります。これを最初に打ち出したところ、大きな反発が出てしまいました。そこで、管理会社に依頼してこのような工事ではどのように費用負担をしているのか調べてもらいました。その結果、管理組合が負担するケースが大半だということが分かりました。

江成:更に、施工会社からは、個人との契約では契約自体が難しいと言われました。窓口がひとつに定まらないと工事実現が難しいことが分かりました。横引管委員会の活動については、当初は立候補制でスタートし運営できていたのですが、だんだん参加人数が減ってしまいました。そこで、2017年はじめには長期修繕委員会と再度合流しての活動になりました。それだけ大変な労力を要する委員会でした。

大島:専有部分にある横引管も管理組合の費用で工事を行うということを決めるにあたり、条件がありました。専有部分の工事は予定外の施工範囲だったので、費用が予定よりも当然多くかかります。これを補うために、毎月の修繕積立金の値上げを条件とし、結果的には2.7倍の金額となりました。元の修繕積立金がかなり安かったので、平均的な費用と比較するとまだ安い方かなと思います。これは、当マンション付属の駐車場代のうち、約半分を修繕積立金に回すことで補えているためです。駐車場は自走式なので、機械式駐車場ほどは維持費用がかかりません。築5年経過した頃からこの方法を続けています。ただ、駐車場には消防設備などの設備がありますので、いずれこうした設備の修繕や更新が出てくるだろうとは予想しています。

江成:修繕積立金の値上げを行うために、今回の工事の契約金額とその最終的な増減金額を、従来の修繕積立金のままで集められる金額と常に比較して公開していました。値上げをしなければ赤字になってしまう状況は一目瞭然でした。こうしたことを続けていたおかげで、多少の反対意見はありましたが、値上げに対して強硬な反対意見はありませんでした。私が理事長を務め始めた5年前から、赤字になるということは常々周知していましたが、やはり自身が支払うという状況にならないと、なかなか意見が出てこないものだなと感じました。

大島:修繕積立金の最終的な値上げ金額は、今回の排水管更新工事の増減精算まで完了した時点で決定したいと思っていました。今の金額を維持した場合にいくら不足するのかがはっきりするからです。その結果、値上げ金額は2021年2月の総会で決定できました。エレベーターの更新工事も控えていますしね。25年先に赤字を解消できる価格設定になっています。

3.2. 工事内容の検討

排水管更新工事

自走式駐車場入口付近から見上げるザ・シーン徳川園

新藤:本日お話をうかがっている江成様、大島様は、2017年7月に、当時弊社で施工中だった「ベル・パークシティ画地IIG棟排水管更新工事」を見学にお越しになりました。この時は、ザ・シーン徳川園管理組合としてはどのような時期だったのでしょうか。

大島:見学に行った当時は、低価格で工事を行える「更生工事」で行こうと考えている頃でした。施工方法の検討にあたって、大きなポイントとなるのは、排水管内を清掃して内部をコーティングする「更生工事」と、配管そのものを新しい配管に交換する「更新工事」のどちらにするか、という点です。実際に施工会社から「更生工事」の見積も取り寄せていました。しかし、実際の超高層マンションでの排水管更新工事を見学して、「更新工事」でなければという考えに一気に変わりました。

新藤:超高層マンションでは、排水立管と横引管が交わる「継手(つぎて)」という部分が、「排水用特殊継手」という特別な部品になっています。これは、排水管内の水と空気を円滑に流す部品で、内部にらせん状の流れを生むための羽のような突起物があり、これにより排水は、管の内側表面をらせん状に回りながら下へ流れ、排水管中心部分に空気の通り道が作られ、スムーズに排水ができるようになります。

排水管更新工事

株式会社クボタケミックス 令和2年6月5日『排水集合管 総合カタログ(D83-04) 』より
クボタケミックス排水集合管システム 流下の仕組み
※大きな画像は、リンク先のカタログでご覧ください。

大島:この「排水用特殊継手」が、実際の超高層マンションで腐食してしまっている様子を目の当たりにしました。立管や横引管の直管部分は「更生工事」でも良いかもしれませんが、かなり腐食が進んでしまった「排水用特殊継手」内部に関しては、「更生工事」では本来の機能を回復できないと感じました。

江成:場所によっては「排水用特殊継手」そのものに穴があいているのも見ました。そこで、帰ってきて早速、当マンションの排水管内の内視鏡調査を行いました。屋上や専有部など、様々な場所から調査を行いました。その結果、当マンションでも「排水用特殊継手」の腐食が進んでいることが分かりました。

大島:ちなみに、「更生工事」にしようと決めるのにも検討を重ねました。複数の施工会社に相談しましたが、1社は過去に実績の無い階数での工事になるとの理由で断られてしまいました。もう1社は、実績は無いけれど理論上は出来そうだということで見積をしてくれました。やはり「更新工事」よりも安く3分の1程度の低価格の見積が出てきたので、これならやってみようかと感じ「更生工事」で行こうと考えました。ただ、施工実績のない高層部分での施工は、テスト工事として別途契約したいという条件付きでした。最終的には「更新工事」に切り替えることとなったので実現しませんでしたが。

新藤:実際、お考えだった「更生工事」の工法は15階までで採用される工法です。また、直管部分は問題ありませんが、「排水用特殊継手」への「更生工事」では審査証明(目的とする性能が十分にあることを第三者機関が証明する制度)も取得できていません。「更生工事」の工法にもいくつか工法がありますが、超高層マンションでも問題なく施工できる工法は殆どないのではないでしょうか。

渡邉:「ベル・パークシティ画地IIG棟排水管更新工事」の見学が無ければそのまま「更生工事」になっていたということでしょうか。

大島・江成:そうですね。見学を出来たことも、そのタイミングも、本当に良かったなと今は思っています。

大島:白ガス管である排水管の寿命は30年程度と思っていましたが、それよりも早く腐食してしまいました。

新藤:使用条件にもよるので、全ての白ガス管の寿命が30年とは一概には言えません。ですが、排水管の寿命は40〜50年という考え方もある一方で、「ベル・パークシティ画地IIG棟排水管更新工事」では30年弱で「更新工事」が必要という結果になりました。

後編記事はこちら
『タワーマンションの排水管更新工事に挑む!〜ザ・シーン徳川園〜 後編』

■あわせてお読みください
● 現場所長に聞く 〜第9回 設備・内装リニューアル事業部 Y.W さん編
● タワーマンションの大規模修繕 日本初の超高層 給・排水設備工事 ベル・パークシティ画地IIG棟
● 複合用途型マンションにおける商業施設内での設備改修工事(排水設備)について


《この記事のライター・インタビュアー》
大塚 麻里絵
建装工業株式会社 MR業務推進部所属
埼玉県出身 東京理科大学理工学部建築学科卒業
一級建築士・一級建築施工管理技士を有し、大規模修繕工事現場にも従事した経験のある女性技術者・ライター
※建装工業株式会社公式HPはこちら

(2021年9月27日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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