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室温差で起こるヒートショック マンションでの温度差対策「室温バリアフリー」
冬はヒートショックが多発する季節で、家の中の室温差もヒートショックを起こす大きな原因になります。近年、住宅内の室温と健康の関係について研究が進み、断熱改修などによって室温が安定すると血圧の季節差が縮小し、夜間頻尿回数も減少する傾向があると報告されており、国土交通省は断熱改修を推進しています。しかし、現実問題として費用面などさまざまな理由からすぐにリフォームをすることは難しく、またマンションの場合は断熱リフォームにも管理規約による制約があります。
そこで今回は、室温差を小さくして身体への負担を抑えるマンションでの「室温バリアフリー」と、寒い冬でも体調の急変を起こしにくい暮らし方について考えます。
目次
1. 温度差で起こるヒートショックとは
2. マンションの室温差対策 室温を見直し、室温バリアフリーを
3. 室温差のある冬に注意したい お風呂の入り方とは
4. これはヒートショック?意識があってもご注意を
温度差で起こるヒートショックとは
WHO(世界保健機構)は「冬は室温を18℃以上にする」ことを推奨し、「子どもや高齢者がいればさらに暖かくする」よう勧めています。また、室温が低い家では健康リスクが高まりやすく、特に高齢者ほど血圧への影響が顕著であるとの報告もあります。
他方で、冬には「溺れる」事故による高齢者の救急搬送が増加する傾向があり、そのうち死亡する人や重篤な状態で運ばれる人が約8割を占めています。事故の大部分が住居内で起こっているため、家の中の室温差が事故に関係していると考えられ、国はヒートショックによる溺水事故への注意を呼びかけています。
「ヒートショック」は医学用語ではありませんが、温度差がある環境を短時間のうちに行き来することで起こる「血圧の大きな変動」に関連した病態です。周囲の気温に合わせて血管が収縮したり拡張したりして血圧が乱高下し、循環器系の症状をきたします。
家庭内での事例としては、暖かいリビングから室温の低い脱衣所に行き、その後温かい湯船につかることで引き起こされる浴室でのヒートショックや、暖かい布団から出て寒いトイレに行き、いきんで血圧が上昇したり、寒い冬の日に暖かい部屋からゴミを捨てに出ることで起こるケースなどがあります。
ヒートショックでは、めまいや立ちくらみなどの軽い症状で済むこともあれば、意識消失や胸痛、呼吸の異常などの重い症状がみられることもあり、脳卒中や心筋梗塞などの生命に関わる病気につながる場合もあります。なかでも、高齢者や高血圧、肥満症の人はヒートショックのリスクが高い傾向にあります。
※ヒートショックや断熱リフォームについてはこちらの記事でも解説しています。
⇒マンションでもヒートショック対策やリフォームは必要?
⇒断熱リフォームをすれば、冬も夏も快適に 電気代の節約にも!
マンションの室温差対策 室温を見直し「室温バリアフリー」を
諸外国と比較すると日本の冬の家は寒いといわれています。WHO(世界保健機関)は家屋内の室温を18℃以上に保つことを推奨していますが、2019年の調査によると、日本の家の冬の平均室温はリビングが16.8℃、脱衣所が13.0℃、寝室が12.8℃となっています。※
※出典:室温と高血圧、睡眠の関係(e健康づくりネット)
リビングの室温だけをみても、18℃以上を保っているかどうかで健康診断の結果に明らかな違いがあるとの調査結果があります。18℃未満の寒い家では18℃以上の温かい家と比べて心電図に異常所見があった人、総コレステロール値が基準値を超えている人が1.8倍で、さらに室温が下がると約2倍に増えることがわかっています。
※出典:家選びの基準が変わります(国土交通省)
なお、入浴時の事故リスクを抑えるには、リビングだけでなく家全体を暖かくすることが大切です。リビングは暖かくても脱衣所が寒い家では、家全体が暖かい家に比べて入浴事故リスクが約1.5倍になり、さらに家全体が18℃未満の家では約1.7倍にのぼるという報告もあります。
※出典:家選びの基準が変わります(国土交通省)
●室温バリアフリーを実現しよう
マンションの寒さ対策では、まずは部屋や場所ごとの温度の見直しが必要です。一般的に寝室、トイレ、脱衣所、浴室、廊下や玄関などの温度が低くなりやすいといわれるため、起床時、入浴時、就寝時などの時間帯でそれぞれの気温をチェックしてみましょう。
その結果をもとに、家の中で温度差がない「室温バリアフリー」を実現するために、なにができるかを考えます。
一般の住宅では、暖房で温めた空気の熱の約6割が窓などの開口部から外へ逃げ出すといわれています。
気密性が高く壁や天井に断熱材が施工されているマンションでも、窓への対策は重要です。内窓を設置して二重窓にするほか、断熱シートや断熱フィルムを貼ったりカーテンを断熱カーテンに変えるなどの対策をとるとよいでしょう。
廊下や玄関までくまなく暖かくするには、パーソナルエアコンや小型温風機など狭い範囲を温める暖房器具を取り入れたり、エアコンで温まったリビングの空気をサーキュレーターを使って広く行きわたらせるのもよいかもしれません。
また、廊下や脱衣所、トイレなどにタイルカーペットやラグ、コルクマットなどを敷けば、足に直接伝わる冷たさを軽減できます。
⇒マンションライフを快適にするカーペットの工夫とは
エアコンで温まった空気の約2割はすき間風で失われるともいわれます。窓用、浴室用のすき間テープなども数百円から購入できるので、試してみるとよいかもしれません。
室温差のある冬に注意したい お風呂の入り方とは
ヒートショックによる死亡事故のリスクが高まる冬の入浴では、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
まず、家の中で室温差が生じやすい冬場には、脱衣所や浴室の温度に注意が必要です。あらかじめ浴室暖房や電気ヒーターなどのスイッチを入れ、リビングとの温度差を5℃以内にしておきましょう。入浴前に温かいシャワーを出して浴室内を加湿したり、シャワーを使って浴槽にお湯を張るのも、湯気で浴室内の温度や湿度が上がって寒さを感じにくくなるのでおすすめです。また脱水状態にならないよう、入浴前後にはコップ1杯程度の水を飲むとよいでしょう。
●入浴時の注意点
入浴する際には、ヒートショックによる事故が起こらないよう次のようなことに注意しましょう。
・食事直後、飲酒後や服薬後の入浴は避ける
・家族と同居している人は、入浴前に声をかけ合う
・湯船に入る前にかけ湯をする
・風呂の温度は40度前後に設定し、お湯につかるのは10分程度にする
・湯船から出るときには勢いよく立ち上がらない
出典:交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!(政府広報オンライン)
これはヒートショック? 意識があってもご注意を
入浴時には下記のような不調におちいるおそれがあります。
・めまいやふらつき
・立ちくらみ
・息が苦しくなる
・頭の痛み
・胸や背中の痛み
・吐き気、嘔吐
・ろれつが回らない
・意識消失
めまいやふらつきなどの軽微な症状だと「のぼせ」と勘違いしてしまうことがあるかもしれません。しかし、少しでも異常を感じたら急に立ち上がったりせず、ゆっくり座るか横になって頭を低くしておきましょう。嘔吐したときに窒息しないよう、顔を横向きにしておくことも大切です。湯船にいる場合は、お湯を抜くことで溺れるリスクを減らせます。
しばらく休んでも症状がおさまらない、また、ろれつが回らない、意識がないといったケースでは重篤な病気の可能性があるため、早めに医療機関を受診したほうがよいでしょう。
●浴室で倒れている家族を発見したとき
※引用:ヒートショックにご用心(港区)
呼びかけに反応しない場合は、浴槽の栓を抜いてから救急車を呼びます。呼吸をしていなければ胸骨圧迫による心臓マッサージが必要です。
また、マンションに管理人が常駐していれば、救急車を呼んだことを伝えておくと出入り口での対応がスムーズになるでしょう。
症状がヒートショックによるものかどうかは、医師が診察してみないとわかりません。
最初は軽微な症状であっても、後に意識を失うなど重症化する可能性もあります。軽視せず早めに対処することが重要です。
気密性の高いマンションに住んでいても、安全に暮らすためのキーポイントとなるのは家の中の室温差です。
冬場に頻発するヒートショックを起こさないためには、毎日の生活の中でリスクを意識し、安全に過ごせるよう具体的な行動に移すことが大切です。日本気象協会では家の中でのヒートショックのリスクの目安となる「ヒートショック予報※」を公開していますので、こうした情報も活用し、十分注意を払いながら寒い冬を乗り切りましょう。
※「ヒートショック予報」(日本気象協会)
■あわせてお読みください
・マンションでもヒートショック対策やリフォームは必要?
・断熱リフォームをすれば、冬も夏も快適に 電気代の節約にも!
・マンションの浴室をリフォームする時にプラスしたいもの
■この記事のライター
吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
愛知県出身 職能能力開発総合大学校(当時:相模原市)卒業
マンション管理士・一級建築施工管理技士・マンション維持修繕技術者を有し、大規模修繕工事の営業に従事した経験者
※建装工業株式会社公式HPはこちら
(2025年1月6日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。