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マンションの大規模修繕工事における高耐久化は有効か? 一般的な仕様と修繕周期を伸ばす高耐久化を目的とした仕様の比較
一般的なマンションの修繕サイクルは12年〜15年ですが、修繕周期を伸ばす高耐久化を目的とした仕様にすれば15〜18年に引き伸ばすことが可能です。昨今のマンションが抱える老朽化問題にともなって、各材料メーカーや工事会社では期待耐用年数の長い製品の開発に取り組んでいます。
そこで今回は、マンションの大規模修繕における、一般的な仕様と修繕周期を伸ばす高耐久化を目的とした仕様の各部位に関する耐用年数の比較と、それぞれのメリットをご紹介します。
目次
1. マンションの大規模修繕工事の概要
2. 一般仕様と高耐久仕様の比較
3. 一般仕様と高耐久仕様のメリット
4. 高耐久仕様における今後の課題
5. まとめ
マンションの大規模修繕工事の概要
マンションは雨や風、紫外線などの外的要因で日々劣化しており、年月が経つと様々な部分で不具合が発生してしまいます。小さな不具合でも、そのままにしていると重大な問題を引き起こしてしまう原因になるのです。まずは、マンションの大規模修繕における工事の内容を見ていきましょう。工事は主に下記の4つに分類されます。
・防水工事
・塗装工事
・シーリング工事
・躯体補修工事
それぞれの工事内容と役割について解説していきます。
・防水工事
屋上やバルコニー、開放廊下など、床の防水工事を行います。特に屋上は、常に紫外線や雨風にさらされているため、外壁と比較すると劣化スピードが早く、防水層が劣化すると雨漏れが発生し、マンション全体の寿命を縮めることとなります。
防水工事の種類は、「ウレタン防水」「シート防水」「アスファルト防水」など様々で、期待耐用年数や費用が種類によって異なってきます。
・塗装工事
大規模修繕工事では「外壁」と「鉄骨階段や扉・手すりなどの鉄部」という2種類の塗装工事が必要となります。塗装をすることで美観を回復するだけでなく、部材を保護する効果も期待できます。
外壁塗装工事では、使用する塗料の付着性を確認した後に工事が始まります。成分によって寿命や工事費用が異なるため、塗料選びは特に重要です。
既存の色と違う色を選ぶことで外観が大きく変化し、新しい気持ちで生活を楽しむこともできます。
鉄部塗装工事は一般的に、サビが発生している箇所に「サビ落し(専門用語でケレンと称します)」をします。既存のサビを除去した後に、鉄部全面にさび止め塗装を行い、サビの再発を防ぎます。
・シーリング工事
シーリング工事とは外壁やサッシ、タイルの目地などに発生する隙間を埋める防水材のことで、「シーリング材」を撤去し打ち替える工事を指します。施工時にペースト状のシーリング材は、硬化するとゴム状に変化して躯体の動きを柔軟に追従し、内部に雨水などが侵入することを防ぎます。また、シーリング材は被着体によって材質が異なり、成分によって寿命も様々です。一般的には10年前後で打ち替え工事が必要とされています。
・躯体補修工事
下地補修工事の一つで、マンションの躯体になっているコンクリートのひび割れや破損箇所を修復する工事です。場合によっては内部の鉄筋がさびていることもあり、その場合は大掛かりな工事になります。躯体とその内部にある柱の劣化は、建物の耐久性や安全性に大きく影響するため、特に重要です。
また、タイル貼りのマンションであれば躯体補修と同時にタイルの劣化状況を確認することも必要です。症状としてはタイル本体のひび割れや欠け、下地から浮いてしまう浮きなどの劣化があります。
●大規模修繕工事の必要性
大規模修繕工事が必要となる主な理由は「老朽化の抑制」と「資産価値の維持」です。老朽化したマンションのストックは年々増加していて、社会問題になっているといっても過言ではありません。耐震性の不足による大きな破損や外壁の剥落による事故を抑制するため、マンション再生も考慮した大規模修繕が不可欠となってくるのです。
一般仕様と高耐久仕様の比較
高耐久仕様にする一番の目的は、メンテナンスのサイクルを伸ばすことで、これにより長期にわたる安全性と美観の維持が可能となります。これまで説明した4つの工事について、一般仕様と高耐久仕様で期待耐用年数並びに保証年数がどのように変わるのか、概略目安を下表にまとめましたので、ご覧ください。
期待耐用年数 | 保証年数 | |||
一般仕様 | 高耐久仕様 | 一般仕様 | 高耐久仕様 | |
屋上防水 | 10〜15年 | 15〜25年 | 10年 | 15〜20年 |
バルコニー防水 | 10〜15年 | 15〜20年 | 5年 | 10年 |
外壁塗装 | 10〜12年 | 15〜20年 | 3〜5年 | 5〜10年 |
鉄部塗装 | 3〜7年 | 5〜10年 | 2年 | 3〜5年 |
シーリング | 7〜10年 | 15〜20年 | 5年 | 10年 |
躯体 | 7〜10年 | 15〜20年 | 5年 | 5〜10年 |
一般仕様と高耐久仕様のメリット
高耐久仕様による耐用年数の向上や保証期間が延びることは魅力的ですが、一般仕様ならではのメリットもあります。ここからは「一般仕様」と「高耐久仕様」の双方のメリットを紹介します。
・一般仕様のメリット
一般仕様の場合、これまでの工事実績が多数あるため、品質が安定している点がメリットとして挙げられます。また、一昔前と比較して、防水材や塗料本体の性能も底上げされており、ある程度の期待耐用年数が期待できます。
・高耐久仕様のメリット
メンテナンスのサイクルを延長できることが一番のメリットになります。例えば、一般仕様によって12年周期で修繕した場合、60年間で修繕の回数は5回。高耐久仕様によって15年周期で修繕した場合は60年で4回と、修繕回数を減らすことも可能です。
高耐久仕様における今後の課題
高耐久仕様における今後の課題として下記2点が挙げられます。
・実績の積み上げ
・コスト削減に向けた働き
●実績の積み上げ
高耐久化にあたって、新製品の実物件における使用実績や新工法の実績はまだまだ少なく、長期保証を満了した工事物件は無く、予期せぬトラブルが発生する可能性も0ではないでしょう。
●コスト削減に向けた働き
例えば防水材やシーリング材の場合、寿命の長い製品を使うことで、価格が1.5倍から2倍になることも考えられます。長期保証という付加価値がつくことを考えると妥当かもしれませんが、修繕周期が伸びるメリットと1回当たりの修繕費用の割高感をどう考えるかがポイントになります。
高耐久仕様の材料が将来的に量産されることにより一般仕様との価格差が少なくなれば、より品質の高い高耐久仕様の大規模修繕工事が一般化していくかもしれません。
まとめ
マンション大規模修繕工事で修繕周期を伸ばす高耐久化を目的とした仕様は修繕サイクルを延長できることから考えると有益と思えますが、コスト面や工事実績数から見ると不安材料は残ります。
マンションのみならず人間の高齢化も進む中では、マンション内のバリアフリー化などにも費用がかかるため、限られた修繕積立金をどのように使用するか、管理組合内でじっくりと考える必要があるかもしれません。
■あわせてお読みください。
・マンション大規模修繕工事とは?
・コロナ禍での大規模修繕工事の疑問にお答えします
・マンション寿命を考える 2回目の大規模修繕は何を優先する?
・マンション修繕工事の表彰制度、クリエイティブリフォーム賞とは?
■この記事のライター
吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
愛知県出身 職能能力開発総合大学校(当時:相模原市)卒業
マンション管理士・一級建築施工管理技士・マンション維持修繕技術者を有し、大規模修繕工事の営業に従事した経験者
※建装工業株式会社公式HPはこちら
(2022年10月24日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。